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※ちょっとしたお話

【み:短い逢瀬】22:54 2007/10/23

ふとソレは訪れた。
仕事中にも関わらず、身体が熱を帯びていく。
熱い。
自然、息が荒れていくのに己の浅ましさを笑い、溜息を吐く。
「What's happun?」
誰かが心配する声が耳に届く。
私は手を挙げて、大丈夫だと告げる。が、相手には上手く伝わらない。そうだ、ココは日本ではない。
「Sorry」
続きの言葉さえ続けられないほど息が熱い。熱い熱い。
そのまま倒れてしまいたかった。
研修中の講師が見かねて、私を無理矢理メディカルルームへと叩き込んだ。
白いベッドが病院を思い出す。
病院。
ぞくりと背に寒気が走り、私はシーツを握り締める。
ここは、日本ではないのに。
この衝動を抑えることが出来ない。

結局、ロクに研修を受けることも出来ず、私は翌日休暇を申請した。その次の日も合わせて2日。寝込むつもりはなかった。
私は必要最低限の荷物を鞄に詰め込み、その足で空港に向かった。
正規料金で旅行券を買うのは馬鹿馬鹿しいとは知っていたが、かといって時間があるわけではない。
飛行機に乗り込む直前で私は携帯電話でメールを送る。
『今日、帰国する』
それだけで十分だ。
声を聞きたいとは思わなかった。ただでさえ暴走している自分を止めることが出来そうになかったからだ。
携帯電話の電源を切って、飛行機に乗り込む。
座席に着いた早々にアスピリンを飲んで、強制的に眠りに付いた。起きていたら、気が狂ってしまいそうだった。

到着のアナウンスが無機質に響き、私は荷物を片手にゲートへと向かう。
「御剣っ」
探すまでもなく、その男は目の前に居た。私の目の前に確かに居た。
私は言葉を返さず、黙って成歩堂の腕を掴んだ。
そのままグイッと引き寄せて、唇を重ねる。
成歩堂の瞳孔が笑えるくらい開いた。
それもそうだろう。ここは私の部屋ではなく、彼の部屋でもない。
多くの人が行きかう空港の到着ゲート前だ。
それでも私には人目を気にする余裕がなかった。衝動に突き動かされてるだけだった。

「成歩堂」
「オマエ、馬鹿だろ」
呆れた口調で成歩堂が溜息を吐いた。
私は小さく苦笑しながら、成歩堂の腕を離す。
荷物を持ち直して早足で歩き始めた。
「早く来い」
「何処に行くつもりだよ」
「決まっているだろう?」
このあたりのホテルは何処だ、と尋ねると成歩堂は目を白黒させながらボリボリと頭を掻いた。
「何だよソレ」
「時間がないのだ」
「時間って」
「明日には帰る」
「はあ?」
いちいち疑問符を浮かべる成歩堂に焦れて、腕を引っ張り、タクシーの中に蹴り入れた。顔面をぶつけたらしく顔を抑える成歩堂の隣に座り込み、一番近いホテルまで、運転手に言う。
「オマエ、乱暴すぎないか?」
「キサマが理解せんからだ」
「当たり前だろ。理由も何も説明なしにあんなメールだけ送ってきてさ。せめて電話だけでも寄越せよ、馬鹿」
「ムウ」
もっともな成歩堂の台詞ではあるが認めるわけにはいかない理由がある。
「言い訳も無しかよ」
ふてくされる成歩堂によっぽど説明してやろうかと思ったが、他人の目がある車中では話しづらい内容だったため、私はその不平に甘んじて目を閉じた。

腹立たしいほどに安全運転のタクシーが寄せたホテルはよくあるビジネスホテルで、私は小さく舌打ちをする。もう少し先にはランクが上のシティホテルがあるはずだったが、それを伝える時間も勿体無かった。私はタクシーの運転手に金を払い、ふてくされる成歩堂を引っ張ってホテルへと足を運んだ。
フロントで眠そうに欠伸をしている従業員にツインを頼み、渡されたカギを引っ手繰ってエレベーターへと足を運ぶ。
震える足を無理矢理エレベーター内に押し込んで、成歩堂を引き寄せる。目的の階は二桁だった。階段を上る手間さえ惜しい。
「御剣?」
ドアが閉まると同時に私は成歩堂に縋りついて、唇を塞いだ。
エレベーターに対する恐怖よりも己の裡から沸きあがる欲求の方が勝っている。浅ましいとも思ったものの、止められないのだから仕方ない。

「オマエ、あんなメール送って僕が来なかったらどうするつもりだったんだ?」
いつ開くか分からないドアは、心配する間もなく目的の階へと辿りついた。
重そうに開くドアを横目に、唇を離した成歩堂が呆れたように私の手を引っ張る。どちらが誘っているのか分からないな、と私は思いながら成歩堂にされるがままエレベーターを下りた。
ジッとこちらを見据える成歩堂に震えさえ覚えながら、私は速度を増す動悸を押さえることが出来ない。
「ソレは・・・考えていなかったな・・・・・・」
「オマエね〜」
まあいいや、と成歩堂が呟いた。
肩を寄せられて抱きしめられる。首筋に当たる吐息は熱く、互いの身体も熱を帯びていた。
「僕もキミに逢いたかったからさ」
ちゅ、と軽い接吻をしながら成歩堂が笑った。ぎゅう、と強くなる抱擁にクラクラと眩暈を覚えながら、私も小さく笑った。


※バカップル絶賛中。拙宅の御剣さんは衝動で動くとバカップル化しますね。というか、無茶しすぎです。アホです。馬鹿です。そういうお馬鹿さんなところが大好きです。朝っぱらからネタが降ってきました。そんなので早起きする私も私です。