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※ちょっとしたお話

【た:誰の言葉でもなく】18:10 2007/12/15

誰の言葉でもなく、キミの言葉が欲しかった。
僕は僕さえも求めず、ただキミに認めてほしかった。

拝啓、綾里千尋様

冬も一層深まり、北風に枯葉が舞う今日この頃。いかがお過ごしでしょうか。
僕はまだ弁護士というものを続けていられるようで、毎日おっかなびっくりしながらどうにか日々過ごしております。
刑事専門、と言うのは容易いですが中々世の中上手く行かず、やっぱり民事なんかも手掛けたりする時もあります。大体は訴訟になる前に示談なんかで終わらせてしまうのですけれど。
いろいろなことがありますが、それでも僕は元気でやってます。真宵ちゃんも時々連絡を取って、前みたいに馬鹿な話で盛り上がったりします。
神乃木さんも弁護士に戻って、今や中堅のやり手弁護士として名を馳せています。
貴方が。
貴方が生きていれば、一緒に居たのでしょうか?
それもまた詮無きことですね。
貴方が居なくなって、もう10年が経ちます。
僕には娘が出来ました。
結婚したわけではないのですが、僕の娘です。
今は真宵ちゃんに代わって、事務所の影の所長なんて肩書きを背負ってます。本人も結構気に入ってるみたいです。
あと、イソ弁じゃないですが、弁護士が一人増えました。オドロキ君と言うのですが僕に憧れて弁護士になった、と言ってたのでまあ実質貴方のやり方に憧れていたのと一緒かもしれません。僕は貴方のやり方でココまで来れたのですから。
ところで千尋さん、僕は間違ってないですよね?
時々不安になります。もしかしたら僕のやっていることは全て間違いなのではないかとどうしようもなく不安になります。
真宵ちゃんもみぬき――娘のことです――もオドロキ君も大丈夫だと言ってくれますが、僕は不安で押しつぶされそうです。そんなに強くないですからね。
それでも僕は。
僕はせめて僕を信じてくれる人くらいは同じように信じていきたいと思っています。
そして出来得るならば、守りたい。

――紙面が少なくなりましたので、この辺りで。
こんな愚痴みたいな手紙は捨ててしまっても構いません。
いつも貴方の手を煩わせて、ごめんなさい。
千尋さん。
僕は貴方のようになれないけれど、それでもやっぱり。
貴方のことが好きでした。

敬具 成歩堂龍一

「なんて、馬鹿みたいだよな。僕も」
僕は書き上げた便箋をピラピラと振りながら、インクを乾かしてやる。
誰に見せるでもない、届きようの無い手紙だ。
「ほう、綾里弁護士への手紙か」
背後から声を掛けられて、ビクリと動きを止めるとそのまま持っていた手紙を奪い取られた。
「何すんだよ、御剣」
「どうせ誰に見せるものでもあるまい」
「あのなあ。手紙、返せよ」
「断る」
「みーつーるーぎー」
「このようなアレは証拠品として提示させてもらおう」
「どういう意味だよ」
「キミの浮気の証拠ということでどうだろうか」
「どこが浮気なんだよ、どこが」
「決定的なのは最後の一文だな。後は状況証拠でどうにでもなる」
「そういうのを捏造って言うんだぞ」
「キミのその口がその台詞を吐くのか?」
僕がそう言うと、御剣がニヤリと笑った。うう、嫌な笑い方だなあ。
「心配せずとも私はキミの事を信じてるのだよ、成歩堂」
フフン、と笑ってピリピリと手紙を細かく破る御剣の姿に僕は溜息を吐いて、知ってるよ、と小さく呟いた。

※こっそり4設定。なるほど君がきっと弁護士資格を取り戻したんだよ、的捏造から。ニットさんなら何でも出来ると思います。色々ツテとかありそうだよな、あの人。