【い:いつまでも一緒に居よう】6:46 2007/12/16
夢を見た。
何だかよく分からないけれど、僕は誰かから箱を手渡される。
願いの叶う箱、と言われた箱を持って僕はただ立っている。
暫くすると真宵ちゃんがやってきて、願い事は何だと聞いた。
「なるほど君の願い事ってなあに?」
「真宵ちゃんが幸せであれば僕なんか別にどうでもいいんだ」
真宵ちゃんは、困ったような、それでも嬉しそうな笑顔を浮かべてありがとうと言って去っていった。
夢を見た。
何だかよく分からないけれど、僕は誰かから箱を手渡される。
願いの叶う箱、と言われた箱を持って僕はただ立っている。
暫くすると春美ちゃんがやってきて、願い事は何だと聞いた。
「なるほどくんの願い事は何ですか?」
「春美ちゃんが幸せであれば僕は何も要らないよ」
春美ちゃんは、困ったような、それでも嬉しそうにはにかみながらありがとうと言って去っていった。
夢を見た。
何だかよく分からないけれど、僕は誰かから箱を手渡される。
願いの叶う箱、と言われた箱を持って僕はただ立っている。
暫くすると狩魔冥がやってきて、願い事は何だと聞いた。
「貴方の願い事を言いなさい、成歩堂龍一」
「キミの願い事が叶うといいね、狩魔冥」
フルネームはお止めなさい、と言いながらも少し恥ずかしそうにありがとうと言って去っていった。
夢を見た。
何だかよく分からないけれど、僕は誰かから箱を手渡される。
願いの叶う箱、と言われた箱を持って僕はただ立っている。
暫くすると神乃木さんがやってきて、願い事は何だと聞いた。
「アンタの願い事を叶えてやるぜ、まるほどう」
「せめて名前くらい覚えてくださいよ。頼みますから」
僕が苦笑すると、神乃木さんも笑う。
「僕のことより貴方が幸せであることを願いますよ」
「欲がねえな」
ひとしきり笑った後に、ありがとよ、と言って去っていった。
夢を見た。
何だかよく分からないけれど、僕は誰かから箱を手渡される。
願いの叶う箱、と言われた箱を持って僕はただ立っている。
暫くすると千尋さんがやってきて、願い事は何だと聞いた。
「なるほど君の願い事は何かしら?」
「僕のことより貴方が幸せであれば、何も望みませんよ」
千尋さんは少し寂しそうに、それでも綺麗な笑顔を浮かべて、ありがとうと言って去っていった。
それから、イトノコさんだとか矢張だとかマコちゃんだとかキリオさんやニボサブさんやオバチャンまで。いろんな人が現れて、僕に願い事を尋ねていく。
僕はその度に彼らの幸せを祈り、彼らは困ったように去っていくのだ。
「それから?」
「うん、そうだね。それだけの話だよ」
「キミは私の時も同じように願ったのだろうか?」
ゴソゴソと布団の中で体勢を変えた御剣が僕のほうをジッと見ている。
「オマエの時は、そうだね。少し違ったかもしれない」
まるで子供に読み聞かせをしてるようだな、なんて思いながら僕は小さく笑った。
夢を見た。
何だかよく分からないけれど、僕は誰かから箱を手渡される。
願いの叶う箱、と言われた箱を持って僕はただ立っている。
暫くすると御剣がやってきて、願い事は何だと聞いた。
「キミの願いは何だろうか」
「僕の願い?」
僕はそこで少しだけ考える。
今までの人たちには彼らの幸せを願ってきた。
ソレを考えると御剣に対しても同じように願った方が良いのだろうか。
「御剣」
「ム、何だろうか」
「僕の願いはキミの願いだよ」
「・・・・・・意味が分からない」
「じゃあ僕から聞くよ。キミの願いって何だ?」
御剣は押し黙って、顎に手をやりながら考え込んだ。
どうやら全く考えてなかったことらしい。
「僕はキミが居れば幸せだから、他に望みなんて無いよ」
「ムウ、しかしそれでは契約に反することだから何か望みを言いたまえ。成歩堂」
困ったように僕を見上げる御剣を抱きしめながら、僕は少しだけ考える。
「じゃあ、僕と一緒に居てよ。今、この時だけでいいからさ」
抱きしめる力を強めると、おずおずと背に腕が回される。
「そのような些細なことでいいのだろうか?」
「良いんだよ、僕にとっては」
僕は小さく笑いながら、愛しい人を抱きしめてそっと目を瞑った。
「それから?」
「それからって、それだけだよ」
「ムウ、キサマがそれだけで終わるとは到底思えないのだが」
「まあ夢の話だしさ」
クツクツと笑って、僕は御剣と向き合うように身体を動かした。
「で、聞きそびれたんだけど、オマエの願いって何?」
ソッと手を伸ばして抱きしめると、夢と同じように少し躊躇いのある腕が僕の背中の辺りをゆらゆらと動いている。
「勝手に想像したまえ」
「冷たいなあ」
「前からだろう?」
「まあね」
冷たい言葉とは裏腹に熱を帯びた手の平や胸が僕の肌に沁みていく。
御剣そのものが暖かくて抱きしめると、僕の肩口に顔を埋めていた御剣が小さく呟いた。
「――――――まえ」
「え? 何、聞こえないよ」
「今だけとは言わず、私の傍に居たまえ」
ハッキリと聞こえた言葉に僕は呆気に取られて、それからゲラゲラと笑い出した。
「成歩堂」
「ゴメンゴメン」
恨みがましく僕を見上げる御剣の顔が赤く染まってて、僕はもう一度笑った。
「キサマが言わせたことだろうに」
「うん、ゴメンね」
腕の力を強めて、御剣を引き寄せると少しだけ余裕のあった肌と肌がぴったりとくっついて、鼓動までも伝えていく。
「いつまでも一緒に居ようね」
「・・・・・・ウム」
耳元に言葉を滑り込ませると、僕の肩にもう一度顔を埋めた御剣が小さく頷いた。
※甘ったるくなりました。可愛いなあ、御剣さん。苛めっ子じゃないなるほど君というのも珍しいのかな、と思いました。