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※ちょっとしたお話

【025:暖炉】10:51 2007/09/17

パチパチと爆ぜる火の粉を見ている。
先ほどくべた薪はあっという間に炎に呑まれ、今は暖を取る道具として燃えていた。
炎の揺れは、人を魅了する。
ゆらりゆらりと決して一瞬たりとも同じ形になることはない。自ら発する光はどこか柔らかく、思わず手を伸ばして触れてみたいような気がする。けれど、触れれば灼熱をもってこの身を焦がしてしまうだろう。
温かみはあるのに、触れることが出来ない。
もどかしい。
火掻き棒を持って、勢いの衰えた炎をかき混ぜる。薪を幾つか脇に退かすと、空気が入り込んで轟、と燃えた。暖炉の横に積んである薪を幾つか引っつかみ、適当に放り投げる。ヒンヤリとしていたはずの木片は忽ちに煤けていく。
「馬鹿馬鹿しい」
部屋には勿論セントラルヒーターも備え付けられていた。床に敷かれているのはホットカーペットだし、断熱材がしっかりと組み込まれた家では、そもそも暖炉が必要なほど冷えるわけでもない。
それなのに何故私は薪をくべているのだろう。火を絶やさぬよう、こまめに動いてるのだろう。
温もりが、欲しいのか。
目に見えないただの空調よりも、目に見える炎を求めているのかもしれない。
ふと、遠くにいる親友を思い出す。
きっと喩えるならば誰よりも炎のイメージから程遠い、男。ぬるま湯のような優しさで自分を甘やかしてくれる男は、それでもなお時折瞳の奥で何かを訴えてくる。酷く、冷たい光で。
どちらかと言えば己よりも冷酷なのではないかと思う時もある。が、それを甘んじて享受する己は一体何なのだろうか。手放したくないのは何故か。
ちりちりと胸の奥が焦げるような痛みが走る。
「馬鹿馬鹿しい」
自分に言い聞かせるように、少し強めに発した言葉は静かな室内に響き渡る。余韻さえ伴って消えていくソレは自身の躊躇いを現しているようだ。
パチパチと火の粉が爆ぜる。爆ぜる。飛び散った光は、消えていく。
ガンガンと頭の中で警鐘が鳴り響く。間隔が早くなる鼓動が忌々しい。
燃しているのは、自分自身だ。種火も燃種も既に己の裡に在って、ちりちりと焦げたところからあっという間に火が生まれ、炎と化す。全てを燃やし尽くすまできっと消えることはないだろう。
「馬鹿馬鹿しい」
カラン、と火掻き棒を放り出して、脇に置かれたソファにどっかり座り込む。
じわじわと侵食する熱が、閉じた瞼の裏に在らぬものの幻覚を呼ぶ。暖炉から届く熱気が頬を撫でてすり抜けた。彼がいつもそうするように。ソッと撫でていくように。
馬鹿馬鹿しい。本当に、馬鹿、みたいだ。
そう独り言ちて、持て余した熱を抱いたまま、静かに意識を閉じた。


※なんだか情緒的なお話。御剣さんですよ。御剣さんです、一応。少し文章を変えれば、冥ちゃんとか言っちゃダメです。自覚してますから。うっかりなるほど君のことを思い出して自慰でもするんかい、とドキドキしながら書いてましたが、やっぱりフテ寝で終わるようです。とはいえ、帰ったらベタベタしてなさい、アンタらと言いたくなる所がアレやソレ。