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※ちょっとしたお話

【021.怖い】18:35 2007/09/17

怖いものはなんですか?
在るかもしれないし、無いとも言えます。
たとえばどんなものですか?
大切な何かを失うのは怖いです。
大切な何か――アナタにはありますか?
作らないようにします。
それで?
それで、とは。
大切なモノも大切な人も作らずに、一人で生きていくつもりなんですか?
そう考えています。大切な人など作ってしまえば、失うのが怖いでしょう。
孤独は怖くないのですか?
もう、随分前に慣れました。

怖いものはなんですか?
両手じゃ足りませんね。今このときでさえ怖いですよ。
それはどうしてですか?
一人ですから。
それは怖いことなんですか?
アイツが傍に居ないことが怖いんです。・・・・・・いつ居なくなるか分からないから。
失うのが怖い?
怖いですよ。どうしたらいいのかよく分からなくなるくらい、怖いです。
一人で生きていく自信はないのですか?
そんなこと出来る人間が居たら見てみたいですね。
身近に居るのかもしれませんよ?
ソレは本当の孤独を知らないからですよ。アレは慣れるもんじゃないでしょう?
一人で生きていくのは怖いですか?
大切な人が居ますから。

パタン、とドアが開かれて暗い顔をした御剣が居る。
どうしたの? と尋ねるものの、チラリと視線をくれただけで言葉は無かった。
チッチッチッ、と時計の秒針が動く音が静かに響く。
誰も通らない廊下に置かれた、ビニル生地のベンチがただただ冷たく固い。
「何か嫌なことでも聞かれた?」
「・・・・・・いや」
声が震えていた。嫌なことを聞かれた、というよりも嫌なことを思い出したというほうが正しいのだろう。もっとも、こちらとて似たようなものだけれど。
「そっちも終わったんだろ。だったらお昼食べに行かない?」
「・・・・・・ああ」
「じゃ、行こっか」
スッと立ち上がると手を掴まれた。驚いて振り向くと、ハッとした表情で手をまじまじと見ている。多分、無自覚だったのだろう。
「御剣」
くすくす笑って、真正面に向き合う。中腰にかがんで目を覗き込むと、少し揺れてるのが見えた。
「何言われたのか分かんないけどさ。僕はオマエの傍に居るよ。多分、これからもずっと」
そう言うと、揺らいでいた視線がゆっくりと上がってぶつかった。
「余計な心配すると禿げるぞ」
「・・・・・・全くキミは・・・本当に・・・・・・ロクな事を言わない」
「前から知ってることだろ?」
「だからキミのことが嫌いだ」
「反語として受け取っとくよ」
「大した自信だな」
「おかげ様で」
色素の薄い眸には既に光が戻っている。
どうやら調子を戻したようだ。
「早く立てよ。昼はオマエの奢りな」
「この程度で奢らせようなどとフザケた限りだな。成歩堂」
「ラーメンでいいよ」
「人の話を聞きたまえ」
本当にロクでもない会話を交わしながら、御剣はベンチから腰を上げた。僕も同じようにしゃがみ込んでいた腰を伸ばす。
「じゃあ、行こうよ」
「ウム」
カツン、とリノリウム張りの廊下を蹴って、僕らは人気の無い廊下を歩いていった。その手は繋いだままで。

※病院です。カウンセリングなところです。御剣さんは定期的に通ってるのかしら。仕事が忙しい、とか言ってサボってそうな気もしますが。今回はなるほど君もついでに受診してみたようです。二人ともトラウマだけはムダに多そうだ。特に御剣。