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※ちょっとしたお話

【014:誤認逮捕】0:58 2007/09/22

父が死んだ日の事はよく覚えていない。
きっと覚えてはいるのだろうけれども、己の中で良しとしない。
分かっている。無理矢理押し込めたところで何の意味も無い事など。
「御剣」
はあはあ、と白い息を吐きながら近づいてきた幼馴染は少し走ったのか顔が赤い。息も荒く、膝を押さえてぜえぜえと喘いでいたかと思うと、急に上半身を跳ね上げてニッコリと笑った。
「釈放されたって聞いたからさ。うん。改めてオメデトウ、御剣」
「何故ココに居ると分かった」
「え? うーん、何でだろう。勘、かなあ」
ニコニコと笑う男から顔を背けて、湖を見た。
あの弁護士が死んだ場所。私が、殺した場所。
「立証できて良かったよ」
「何がだ」
「オマエの無罪に決まってるだろ」
「・・・・・・そうか」
心底嬉しそうな幼馴染は、笑いながら世間話をしてくる。事務所のこと。もう一人の幼馴染のこと。15年前の馬鹿馬鹿しい思い出。助手の女の子のこと。先だって亡くなった師匠にあたる弁護士。情報を流してくれる刑事。等々。
そして、彼は事件を語った。
先ほどまでと変わらない微笑を浮かべたまま、今回の事件を語った。
苦々しい表情をしながら、私の師について語った。
DL6号事件についてを語った。
「やっぱり少し変わったよね、オマエ」
私は酷く不愉快になった。キサマに何が分かる。
「あ、不愉快な気分にさせたんならゴメン。謝るよ」
少しバツの悪そうな表情で、ぺこりと謝ってくる。
ざわ、と全身が震えた気がした。
私の、何が分かるというのだ。
自分の感情さえも持て余して、どうしてこの男に憤るのか分からなかった。それでも苛立ちがじわりと滲みて、無性に腹立たしく思う。私にさえ分からない私を、他人であるキサマがどうして分かると言い切れるのか。そう、叫びたくて仕方なかった。
「もう、いい」
それでも口から洩れたのはただの呟きだった。ぽつりと呟いて湖面を見つめる。細波さえ立たない水面はまるで凍てついているかのように静かだった。


※1−4直後ですね。いちいち腹立てているのは、無意識に目で追っている証拠です(笑)この頃はなるほど君も御剣さんも無自覚の頃かと思われます。特に世話好きなるほど君は鬱陶しいほど付きまといます。ただのストーカーじゃないかと言われればそれまでですが、本人は単純に親切でやってるつもりです。御剣さん的には『余計な親切、無駄な世話』と思ってる模様。報われません。