【012:トノサマン】8:17 2007/09/21 最近、春美ちゃんもトノサマンにハマッているようで、事務所で真宵ちゃんと一緒に録画したものを見ていることが多い。 僕にはよく分からないけれど『おとなのロマンス』というヤツが堪らないのだそうだ。特撮モノに果たしてロマンスなんてものがあったのだろうかと首を傾げたけれど、そういえば『トノサマン・丙』の時に恋の鞘当がメインとかなんとか真宵ちゃんが言っていたような気がする。子供が見る番組でそんなドロドロした人間関係を見せても良いのだろうかと、保護者としては幾許かの不安が胸を過ぎったけれど、昼メロや深夜ドラマとは違うのだと真宵ちゃんに説得されて、完全には納得はしていないものの現状維持で妥協した。まあ、製作会社もその辺は考えているだろう。そうに違いない、と一人頷きながら僕は相変わらず山のように積み上がった書類に手を掛ける。 真宵ちゃんたちはお茶を飲みながらトノサマン。お客さんが来る予定は悲しいことに、当然無い。にも関わらず。 「御剣、何でオマエが居るんだよ」 「ム。今、丁度良いところなのだ。声を掛けないでいただきたい」 真宵ちゃん、春美ちゃん、それに春美ちゃんを膝に抱えた御剣。 三人揃って、仲良くトノサマンを見ている様は確かに微笑ましい光景だ。あくまでも何事もなければ。他人事だったら楽なんだけれども。 「仕事はどうしたんだよ、テンサイ検事」 「喧しい。黙っていることも出来ないのか、シロウトめ」 トノサマンを見ているときの御剣は辛辣だ。そして、容赦ない。 っていうかさ、ここ僕の事務所だろ。 真宵ちゃんが1か月分取り溜めたビデオテープはまだ30分を過ぎたところだ。終わりまで程遠い。相談のお客さんとか来たらどうするんだよ。 「仕事させてくれよ、頼むから」 深い溜息を吐いて、僕はぬるいコーヒーをズズッと啜った。
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