【011:窓】10:10 2007/09/17 季節外れの風鈴が、凛、と鳴る。 ああそういえば片付けるのを忘れてたと思い出して、窓際に近づいた。 丸っこいガラスに流水が絵付けされた、典型的な江戸風鈴。 真宵ちゃんと春美ちゃんが嬉しそうに窓際にくっつけていたことを思い出す。 凛。 もう秋めいてきた風が、夏の象徴を鳴らして抜けていく。 凛。 夏の名残を惜しむように、僕は殊更ゆっくり外していく。 凛。 柔らかいような、それでいて透明な音。 心地良い音色の中に、鋭ささえ秘めている。 凛、凛。 僕はふと千尋さんを思い出して、手を止めた。 そう言えば彼女も夏が近づいてくると、嬉しそうに窓際に風鈴を掛けてたっけ。 凛。 この絵柄を選んだのはきっと涼やかな夏らしいものだったからだろう。 「オマエも誰が選んだんだろうね」 観葉植物のチャーリー君と同じように、かつて所属していた星影法律事務所の先輩から貰ったものと言っていた。だから、コレは千尋さんの趣味、というよりはその人の趣味だろう。 凛。 もう少しだけ聞いていたいような気もするけれど、夏は過ぎてしまったから。 凛。凛。 「ええと、確かこの辺に箱が―――あったあった」 凛。 僕は短冊を外して、風鈴を箱にしまいこむ。短冊を軽く巻いて、箱の隙間に入れ込んだ。しまう時にガラスが濁った音を立てる。 もう、夏は、終わり。 先ほどまで風鈴を下げていた窓際でブラインドが寂しげにカタカタと揺れていた。
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