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※ちょっとしたお話

【008:公園】8:16 2007/09/18

外灯が鈍く照らす公園の中でぽつんと立ち尽くしてみる。
見上げる外灯は既に老朽化しており、ぼやけた光しか生み出さない。羽虫が集って、更に光は遮られてしまう。じじっ、と蛍光管が時折緩く明滅し、そろそろ取り替え時期なのだろうと思わせた。
ふう、と小さく溜息を吐いて、公園内を流れる川沿いのベンチに座り込む。普段ならどこかしらカップルが潜んでいたりするのだが、今日はそんな気配はまるでない。珍しいことだと思いながら、自動販売機で買ったばかりのコーヒーのプルタブを上げた。
公園の入り口が見えるように座りなおすと、僅かながらも己の事務所が見えた。
まだ灯りが煌々と付いているのは、愛しい娘が最近転がり込んできた居候弁護士と共にテレビでも見ているのだろうと思わせる。
「兄妹だって知ってるのかなあ。なあ、御剣」
前半は呟くように。後半はふっと公園に滑り込んだ影に呼びかけるように、僕は声を大きくした。
ザリザリと革靴が土を踏む音が公園内に響く。
「久しぶり。2年ぶり、かな」
「馬鹿を言え。半年前に逢ったばかりだろう?」
「半年前は会議で顔を突き合わせただけだろ。あんなのは逢ったうちに入らないの」
「フッ、そうかもしれんな」
気障ったらしいポーズがよく似合う男は外灯の下を潜り抜けて、薄暗いベンチの前へ辿り着いた。
「たまには帰ってこいよ。じゃないと愛情疑うぜ?」
「さて、私たちの絆はそれほど脆いものだったろうか」
「あははは、浮気しちゃうかもよ?」
「無理だろう」
「どうしてさ」
「キミの好みは熟知している。私以上に理想の者など居るのかね?」
「下らないこと聞くなよ。分かってるんだろ?」
くすくす笑いながら腕を引くと、存外簡単に引き寄せることが出来た。
「・・・・・・ああ、御剣の匂いだ」
「キミは変態か。逢って早々に抱きついて匂いを嗅ぐような馬鹿は居ないぞ」
「居るさ」
ここに、と笑って見せると、顔を僅かに歪ませてくつくつ笑い出す。
どうせマトモじゃないのだから、世間一般の『普通』に合わせる必要性なんてない。
「おかえり、御剣」
「ああ、ただいま」
夜も遅く。こんな時間に公園に居るような真っ当な人間は何処にもいない。
居るとすれば、こんな馬鹿げた恋人同士くらいなものだろう。
「それにしてもキミは相変わらず汚いな。ヒゲくらい剃りたまえ」
「変かな?」
「誰彼構わず誘惑したいのなら止めないがな」
「キライ?」
「好きだから困ってるのだ、馬鹿者」
普段なら聞き逃しそうな小声も、こんなに静かでは嫌でも耳に届いてしまう。
「みぬきは『パパかっこいい』って言ってくれるのになあ」
「パパ違いだ。諦めたまえ」
「相変わらずだなあ。そうそう、みぬきがオマエに会いたがってたよ」
「ウム」
口元が綻んで、笑っているのが分かる。ああ、そういえばコイツも相当の親バカだったよな。僕以上に。なんて思ったりする。
「あ、あと息子が一人増えたからヨロシクな」
「あのキミに似た弁護士か」
「そ。イイ子だからあんまり苛めるなよ」
「それはキサマの方だろう?」
「まあね」
ベンチから腰を上げて、御剣の腕を掴んだ。
指と指を絡めて、手を繋ぐ。
「じゃあ、お待ちかねの初対面ってね」
「精々好かれるよう努力しよう」
「その仏頂面どうにかしろよ」
「喧しい」
じじ、と鈍い音を立てた外灯の下。僕らは事務所へ向かって歩き出した。

※まあ、そういう話もあるかもね。ということで、このあとオドロキ君がどういう対応してくれるのかも面白そうですが、むしろみぬきちゃんと御剣の絡みを書いてみたいッス。