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※ちょっとしたお話

【007:バッジ】19:57 2007/09/17

このバッジを手に入れるために、どれだけのものを犠牲にしたのだろう。

学生時代のことを思い出す。
高校の時に嵌ったシェークスピアは、とても現実的とは思えないような世界を繰り広げてくれる、いわば逃げ場のようなそんなものだった。演劇、という場は確かに充実感はあったけれども、そこにリアリティは無かった。ただただ、演じるだけでよかった。現代劇ではほとんど幽霊部員だったのが、古典になると毎回顔を出す。顧問も部長もそれを苦々しく思いながらも、了承していたような気がする。
ちゃちな演技にちゃちな舞台。
とても褒められるようなものではないソレは、それでもそれなりに楽しかったように思った。

学生時代を思い出す。
ほぼ毎日を図書室で過ごし、学校行事などほとんど覚えてはいない。
学園祭だの体育祭だのそういった行事は消極的に、それでも強制的に参加はさせられた。とはいえ、展示物を行っている教室の片隅でただただ本を読んでるばかりではあったけれど。部活動というものは入った覚えが無い。文武両道。完璧主義。そういったものは全て狩魔の家で叩き込まれた。
意志も無く、意思さえ持たず。
今思えば勿体無かったかと思われるソレも、やはり自分を構成するためには必要のことだったのだと思った。

あの事件を思い出す。
アレ以前から沸々と己の裡に湧いた衝動に駆られて、僕は必死に勉強をしていた。誰のためでもなく、ただ僕自身のために。
それは酷く利己的な理由ではあったけれども、そんな理由でもなければ決して縁の無かった道でもある。芸術学部なのに法学系の講座を取って、死に物狂いで頭に詰め込んだ。法律概論、一般教養、過去の判例。ありとあらゆるものを利用して、取り込んで。
裁判所に行ったのは傍聴と資料探し。ただ、それだけのことだったのに。
巻き込まれて、仕立て上げられて、気付けば。より一層、目指した理由、にはなるのだろう。憎かったわけじゃない。恨みに思ったことはない。ただ、悲しかっただけだ。
そして、僕はその次の年の司法試験に合格した。

あの事件を思い出す。
酷く苦々しい事件だ。今でなお語ることは出来ても、心中穏やかであれと言われれば無理だと答えるほど。それほどに深く己に残った事件だった。
それは酷く排他的な事件であり、犯人の利己的な理由によって作り出された事件だった。証人として現れた彼女は被告を精神的に追い詰め、結果的に最悪の結末を生み出した。その初公判で残された傷は弁護人だけでなく、自分にさえ飛び火が来た。
後味の悪い、最後を持って。とても簡単な、勝てるはずの裁判は。
巻き込んで、仕立て上げ、気付けば。結果的には敗北とも言える、屈辱的な彼女の微笑み。何処までも黒でありながら、灰色として終わった裁判。ただ、悔しかった。
そして、私はそれ以来誰一人とて信じることを止めた。

僕がバッジを付けて、二度目の公判。
それはただの偶然で。偶然であったからこそ、必然を欲した。

既に慣れた法廷で、見覚えのある顔。
それはただの偶然で。偶然であったからこそ、必然を憎んだ。

そして、クリスマスに起こったあの事件。
交錯する接点は、いずれ離れることすら予期しているのか。

『検事、御剣怜侍は死を選ぶ』

このバッジを捨て去ろうと何度思ったのだろう。
それでも捨て切れなかったのは何故だったのか。
それでも握り締めたのは誰のためだったか。

僕は。
私は。
このバッジを手に入れるために、どれだけのものを犠牲にしたのだろう。

※なんだか取り留めのない話。なるほど君も御剣検事もそれなりに色んなものを犠牲にしてるのよって話、のはずが。学生時代から1−5の後くらいまでの二人の気持ち。のような、似非話。
何だかんだと言ったところで、所詮、一生選択肢。戻って選びなおすことが出来ないからこその人生。一回だけなら楽しもうぜ、ってのが矢張。そうか、コイツら二人じゃ暗すぎるもんなー。やっぱり矢張が居てこそ、あの明るさはあるのでしょうか。