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※ちょっとしたお話

【006:写真】19:59 2007/09/16

写真、といえば卒業写真を思い出す。
学生時代のソレは、どれも無表情に写っている。
笑顔で写ってるものなど一枚もない。
それが普通と思っていた。それを普通と思おうとした。

「御剣ィ、オマエも笑えって」
矢張が脇で嬉しそうに人の顔をぐいぐい引っ張る。頬を掴まれて痛い。睨みつけてもゲラゲラ笑うばかりで放す気配は無い。毎度のこととはいえこの男の常識が疑われる。
「ム、しかし写真を取るときに笑うのは失礼ではないか?」
「オマエね。普通、こういうときに取る写真は笑うもんだろ」
ようやく矢張を止めた成歩堂が深い溜息を吐いている。ぬう、何か変なことを言っただろうか。
「そうやで、兄ちゃん。アンタ、人が写真取るときくらい笑ィや」
「そうですよ、ミツルギ検事。折角の勝訴なんですから」
真宵クンと頭が爆発――もとい、鳥の巣のようになった女性に怒られた。
特に関西弁のその鳥の巣頭の女性はカメラを構えながら、ビシィと私を指差している。誰かを思い出して少し腹立たしい。が、とりあえず言われたとおり表情筋を無理矢理動かして笑顔らしき表情を作ってみることにする。
「う・・・ウム・・・・・・こうだろうか」
「うわっ、アンタ、ぎこちなさすぎるで」
「ぎゃははは、御剣、オマエ変な顔になってんぞ」
「み、ミツルギ検事?」
「・・・・・・愛想笑いでももう少しマトモに出来ないのかよ、オマエ」
散々な言われようだ。恥ずかしいを通り越して、怒りさえ込み上げてくる。
「アンタら、御剣検事になんてことを言ってるッスかッ」
糸鋸刑事が大声で怒鳴っている。何故、キサマが怒るのだ?
「検事は―――『検事局のくーるびゅーてぃー』で通ってるッスよ。それを笑顔だなんて、アンタが許しても自分が許さねッスっ」
ちょっと待て。論点が間違ってる。
というかその名称は何だ。一体何処から来たのか。少なくとも私は認識してないぞ。
「・・・・・・糸鋸刑事」
「は、はイィィィッ」
「その、『検事局の〜』は一体誰の言葉だ」
「はッ、いや、あ、その、何ていうか」
「私に言えないようなことなのだろうか」
「そ、そんなことはないッスっ」
怯える刑事に一瞥をくれ、止めの一言を刺す。
「・・・・・・言わねば、今月の給料の査定は」
「わわわわわ、分かったッス。言うッス。喋るッス。だから、減給だけは勘弁してくれッスぅぅぅぅぅっっ」
「よろしい。ならば言いたまえ」
呆気に取られている面々をよそに、糸鋸刑事を詰問する。
この噂の出所を潰さねば、影で何を言われてるか分かったものではない。
「が」
「『が』だけでは分からん」
「が、巌徒局長ッス・・・・・・」
聞かなかったことにしよう。
18通りほどの打開策を考えてみたが、やはりそれが一番最適のように思われた。
相変わらずフザケた局長だ。次に会う機会があれば、一言文句だけは言ってやらねば気が済まない。が、会うこと自体気が進まない。どうしようもないな。とりあえずこの場は無視しても構わないだろう。ウム。
「オオハシャギ、氏だったか。写真は取らないのか?」
「いや、惜しいけど違うから。大沢木だよ、御剣」
「アンタなぁ。人の名前くらい覚えんかいっ」
「ム、すまない」
「っていうかさ、イトノコさんが萎縮してるんだけどどうにかしてくれないか。アレ」
「放っておけ」
「いいのかなあ」
いちいち気にしてたらこちらの精神が持たない。
そういう判断をして、私はオオサワギ女史の方を見やる。
「折角の勝訴だから、な」
「何だオマエ、笑えんじゃん。イイねイイね、ちゃんとその顔で写れよ」
「じゃ、ナツミさーん、お願いしまーす」
矢張がニヤリと口の端を上げ、真宵クンは笑顔でオオサワギ女史に声を掛けている。
「ム、笑えてるのか? 私は」
「うん、いいんじゃないか。オマエらしくてさ」
「フン、キミのようにだらしない表情は真似をしろと言われても無理だ」
「うわ、それ酷いよ。御剣」
クックッ、と私は笑いながら、成歩堂に皮肉を投げた。
言われた当人は少し顔を歪めて、堪えきれないように笑い出した。
ゲラゲラ笑った後は乱れた呼吸を整える。
「ほらほら、アンタら笑ってないでちゃんと寄りィや。ほな、いくでー」

写真、といえば卒業写真を思い出す。
学生時代のソレは、どれも無表情に写っている。
笑顔で写ってるものなど一枚もない。
それが普通と思っていた。それを普通と思おうとした。
けれど。
一枚だけは。
その、勝訴だった裁判の写真に写っている私は笑っている。
満面の笑み、とまではいかないけれども。
私は写真立ての中で僅かに色あせたソレをそっと撫でて、ゆっくりと元に戻した。


※馬鹿話なのかシリアスなのかよく分からんがそういう話。あの写真の裏話的なアレやソレ。単純に御剣が笑う写真、ってだけで笑い顔が変だとかそういう話だけのはずが。イトノコさんが勝手にクールビューティーとか言い始めるから、話が物凄く逸れそうになったり。巌徒さんも勝手に名前だけ飛び出してきました。おいおい。でも巌徒局長はやっぱり格好良いなあ。あのセクハラ発言ッぷりが。