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※ちょっとしたお話

【002:机】8:11 2007/09/14

ぎい、とイスが軋む。
このイスから見る景色ももうすぐ無くなる。
この机も、あの書棚も、チャーリー君も。
無くなる。無くなってしまう。
あの人との思い出も、あの子との思い出も、アイツとの思い出も。
ぎい、ぎい、とイスが軋む。
かつて着ていたスーツは処分した。
フラワーホールに付いてたバッジも、既に無い。
返すことに躊躇いは無かった。
返すことに異議は無かった。
返すことに違和はあった。
ぎ、ぎぎ。
イスから立ち上がって、そっと机を撫でる。
千尋さんが使っていた机。
僕が使ってた机。
もう、使われることは無い机。
泣きたい気分だったけれど、涙は出なかった。
カラカラに乾いた心では、泣けるはずもなかった。
後悔は、していない。
動揺も、していない。
ただポッカリと穴が空いてしまった。
僕は、間違ってたのだろうか?
だとすれば何処から間違っていたのだろうか?
あの証拠品を出したときからか。
あの事件を引き受けたときからか。
それとも。
そもそも弁護士になったときから、僕は間違っていたのだろうか?
きぃ、とイスが小さく鳴った。
後悔をしてはいけない。
動揺を見せてはいけない。
もうすぐアイツが来るのだから。
僕はもう一度机を撫でて、今度は振り向くこともなく所長室を後にした。

※後悔よりも喪失感の方が多かったんだろうなあ。と思ってみたりして。ちなみに私はなるほど君がバッジを自主返納したのだと思っています。世間の目もあったんだけど、それ以上に信条を裏切ってしまった 自分自身が許せなかったゆえだと思います。