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【ベッド際の攻防戦】


「ただいま〜」
ぐったりした身体を引きずりながら、玄関のドアを捻るとリビングからぼんやりと光が洩れていた。消し忘れていただろうかと朝のバタバタした時間を思い出してみる。
布団から跳ね起きて時計を見て驚いて適当にその辺のシャツを引っ掴んで着替えつつ洗面所に飛び込んで顔を洗って髭を剃って髪を整えて賞味期限ギリギリの冷蔵庫の牛乳を飲みながらパンを焼いて―――なんだかキリがないな。もう少し後だ。ええと。パンを食べ終わったら時計が9時前になっていて鞄と鍵とハンカチとか携帯電話とか適当にポケットに突っ込みながら家を出たんだっけ。っていうか、リビングの電気なんか付けてる暇なんか無かったな、今日。
ということは。
今更気付いたように僕は玄関の靴を見る。
見覚えのあるカッチリとしたストレートチップ。間違いない、御剣だ。
そういえば前に合鍵を渡したような気もしたけれど、何故か使ってくれないので存在そのものを忘れてた。使えばいいのになんて思ってたら、今日に限って使ったものらしい。そうだよなあ、だってもう23時回ってるしなあ。
僕は静かにドアを閉めて、靴を脱いで部屋に上がった。
玄関からリビングはほとんど丸見えだ。とはいえ間取りの妙で中の様子は分かりづらい。というか、単純に僕が部屋を片付けないからハンガーで吊るしっ放しのシャツとかが邪魔で見えないというのが真相だったりする。いや、片付けなきゃとは思ってるんだよ。思ってるんだけど暇が無いんだよ。なんて言い訳してみても多分アイツは怒るだろう。
ん?
そういえば御剣が来てる割には部屋が朝の混沌とした状態のままだ。いつもなら半分キレながら片付けてくれるのに一体どういうことだろう。リビングに足を運ぶとベッドの上の布団が膨らんでいる。多分御剣だろう。ベッドの足元にある鞄は雑誌の上におざなりに放られて、スーツはソファに引っ掛けられたままである。本当に珍しい。
「御剣?」
声を掛けても返事は無い。そりゃそうだ、寝てるかもしれない。
よっぽど疲れてたんだなあと僕はしみじみ思いながら、鞄を置いた。スーツ一式は定位置のハンガーに引っ掛けて、脱ぎっぱなしだったスウェットを取る。とりあえず風呂だ。汗臭くて仕方ない。僕はリビングの電気を静かに消して、風呂場へと足を向けた。

シャワーでザッと汗を流して、さっさと上がってしまう。
というのも、身体を洗ってる最中に御剣の悲鳴が聞こえたからだ。何事かと僕は纏わりついた石鹸の泡を洗い流して、風呂場を飛び出した。
ベッドに恐る恐る近づくと苦悶の表情で眠る御剣が居た。どうやらまた悪夢でも見てるのだろうか。
「・・・る・・・・ど・・」
ゆらゆらと腕が何かを求めて空を彷徨っている。
その手を掴んでやると、ギュッと掴まれた。
「・・・・なる・・・ほ・・・・・どう」
「うん」
寝汗の浮かぶ額にキスを落としながら、僕は御剣を抱きしめてやる。熱の篭った身体が縋りついて離れない。僕はまだ屈んでいる状態だから正直体勢がキツイ。というか、御剣重いから。
僕はタップしてるんだか、それとも宥めてるのかよく分からない手つきで御剣の背中を撫でている。多分割合的には6:4くらいだ。いや、ゴメン。今8:2になった。
「なるほどう」
首筋に顔を押し付けられて熱い吐息が耳に当たる。御剣、オマエ起きてるだろ。ワザとだろ。嫌がらせに違いない。
「御剣、ちょっと力抜いて」
かなりギリギリの理性を持って僕はその言葉を吐いた。
うっすらと目を開けて僕を見る御剣。挑発的にも程があるぞ、オマエ。
僕は御剣の背から腕を解いて、身体を離した。
と。
「うわっ」
グイッと急に力が込められたせいで僕は体勢を崩して、御剣の上に倒れた。顔がシーツに埋もれて呼吸が困難になる。うう、不覚だ。
「成歩堂」
今度は明瞭な声音だった。やっと起きたのだろうか。ってか、この状態で起きなかったらソレはソレで凄いものだと感心したに違いないのに。
とりあえず僕は突っ伏したままの頭を首だけ動かしてどうにか気道を確保する。ああ苦しかった。
「成歩堂、寒い」
視界の端に映るのは酷く不機嫌な御剣の顔。
ちょっと待て。誰のせいでこうなってると思ってるんだ。オイ。
「オマエね、どうでもいいから腕を放してくれよ。」
「ム」
ようやく解放されて、僕はホッと息を吐く。風呂上りにも関わらず身体はすっかり冷え切っていた。半ば無理矢理に布団にもぐりこんで外気を遮断する。ごそごそと身動ぎしながら体勢を整えるともう後は寝るだけだ。睡眠は人間の三大欲求のひとつだなんて言い得て妙だよな、なんてろくでもないことを考えながら僕は御剣を抱き枕代わりにゆっくりと目を閉じた。

※続きを書くとしたら裏なんだよ。多分。

20:39 2007/10/17

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