「なーるーほーどー君っ」 「行かないぞ、僕は」 「えー、いいじゃん。行こうよ。行ーこーうーよーッ」 「一人で行って来いよ。僕は絶対に行かない」 「ちぇ、なるほど君のケチ」 「断固として行かないぞ」 「あのさ、ひょうたん湖まで紅葉見に行くだけだよ? なんでそんなに嫌がるの?」 「・・・・・・矢張が居るからな。あそこ」 「ヤッパリさん?」 「アイツが居るところには行きたくないんだよ。絶対ロクなことがないんだ」 「何かあったの?」 「ちょっと昔、ね」 「えー、聞きたいなー」 「真宵ちゃん、焼き栗って知ってる?」 「うん知ってるよ。あれって美味しいよね」 「焼き銀杏は?」 「え、美味しいよ。でも臭いがちょっと残るんだよねー」 「じゃあ、焼きキノコは?」 「あたし、大好き。裏山で取ってくるんだけどね。運が良ければマツタケも取れるんだよっ」 「それは羨ましいかぎりだね」 「ソレがどうかしたの?」 「食べれるキノコなら良いんだよ。僕だって椎茸とかシメジとか結構好きだし」 「なるほどくん?」 「小学校の頃さ、遠足で山登りがあったんだよ。ちょうど今頃。秋真っ只中でさ。御剣なんかいつもの格好で来ちゃって登り辛そうにムウとかヌウとか唸ってたんだけど、矢張なんか張り切って先頭を歩いててね」 「うん」 「アイツ、張り切りすぎてコースからはみ出しちゃってさ。後ろに付いてた僕らもコースから外れちゃったんだよ」 「え?」 「頂上で先生が気付いたんだけど、どこに行ったか分からないってことで皆で大声出したらしいんだけど返事なんか出来なくてね。まあ、山って言ってもそんなに高くない小山みたいなところだから茂みとかも少ないんだけどさ。それでも遠足は中断になって皆で僕らを探したんだよ」 「見つかったの?」 「そりゃね。先生に散々怒られたけど」 「でも返事が出来ないって怪我でもしたの?」 「いや、笑ってたから僕ら」 「笑ってた?」 「アイツがさ、キノコ見つけて『腹減ったし食ってみようぜ』って勢いで」 「ふえー、生で食べたの?」 「生で」 「よくお腹壊さなかったよね」 「だからその代わりに笑ってたんだよ。アイツが見つけたのが笑い茸だったんだ」 「え?」 「御剣は『そんなアヤシイものは食べるべきではない』って拒否したんだけど、矢張が無理矢理口の中に突っ込んで飲み込まされてさ。僕もまあ、似たようなもんだけど」 「ヤッパリさんも食べたの?」 「いや、アイツは食わなかったんだよ。先に食べさせられた僕らがいきなりゲラゲラ笑い出したから流石にヤバイものだと気付いたみたいだね」 「そ、それでどうしたの?」 「笑いすぎて呼吸困難になりかけた」 「よく無事だったね、なるほどくん」 「先生に見つかって、コレはマズいってことで病院にすぐ運ばれたからね。笑うって辛いんだな、ってあの時初めて思ったよ」 「うう、災難だよね。なるほど君もミツルギ検事も」 「本当にね。アイツ、あれ以来キノコがダメとか言ってるから余程堪えたんだろうな」 「可哀想なミツルギ検事・・・・・・」 「『事件の影にはヤッパリ矢張』・・・・・・今考えるとその言葉がピッタリくる出来事だったよなあ、アレも」
7:10 2007/10/21
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