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【Sprechchor】


糸鋸刑事から連絡が来たのは午後4時を少し回ったところだった。
携帯電話が発信を示し、それに応じると僅かに上ずった声で『お休みのところすまねえッスが、事件ッス』と告げられた。
休日返上なのはいつものことだから当然の如く、私は現場へ直行した。
現場はごく普通のアパートで、どうやら被害者は自殺の様相を見せている。
監察の話によると、首吊り、ということだった。
脚立の間に細い紐が掛けられており、それに首を乗せて死んでいるところを発見されたらしい。
「脚立、だと?」
「ええ、この部屋は梁とか丈夫そうな柱とかありませんからそういう方法を取ったのでしょう」
部屋は四畳半と六畳の二間。それにキッチンという間取りだ。紐を引っ掛けられるようなパイプや梁といったものは天井に無い。
「それで身元は分かったのか?」
「ばっちりッスよ」
被害者の名前はヤマグチ シズエ。女性。年齢は23で、現在一人暮らし。職場はすぐ近くで、歩いて5分と掛からない地方銀行支店に勤務ということだった。
「自殺の割には失禁の痕跡が無いな」
「ハッ。それは監察官も言ってたッスが、座位の縊死ではケースによって失禁しない場合もあるらしいッス」
「ふむ」
被害者の遺体は既に運ばれており、現場には白いテープが貼られてるだけに過ぎない。
「遺族とは連絡取れたのか?」
「ソレなんッスが」
どうにも言いにくそうにガリガリと刑事が頭を掻いた。何やら思わしくない状態のようだ。
「被害者の出身地は九州の田舎の方で、就職と同時にこっちで一人暮らしを始めたそうッス。アパートの大家に確認したら、親戚一同遠方住まいということらしいッス」
「すぐには駆けつけられないということか?」
「そッスね」
変死体は司法解剖に掛けられる。
早めに連絡を取れれば、生前に近い形での対面は出来る。が。
「親類が駆けつけるといった情報は無いんだな?」
「今の所は皆無ッス」
では、と言葉を区切り、少し間を置く。
田舎ほど体裁を気にする場所も無い。自殺、それも変死体となれば嫌がって引き取りに来ない可能性もある。
「早めに司法解剖を執り行うよう指示を頼む。執刀者は私の方で声を掛けておこう」
「ハッ、助かるッス」
靴カバーがガサリと鳴って、床を詰る。
もう一度、遺体を見遣って溜息を吐いた。

※長編序幕。続きはないんだ。相変わらずだ。

23:39 2007/10/21

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