朝はまだ遠く、夜の只中に飛び起きる。 はあはあ、と息を吐いて、ゆっくりと息を吸う。 何度か深呼吸を繰り返し、暈ける視界を静かに閉ざす。 ゆらりゆらりと白い影が瞼を過ぎり、思い出すのはあの日の惨劇。 眠気が吹き飛ぶ。 そう、眠れるはずも無い。 枕元に置いた携帯電話取ってぼんやりと時間を見る。 夜も真夜中。無駄なほどに朝までは遠い。 「あー」 無意味に声を出しても、擦れてるだけ普段より性質が悪い。 時間を潰す最高の手立ては寝ることだ。 とはいえ、眠気が来ないことにはどうしようもない。 何かゲームか本でも、と部屋を見るとごちゃごちゃと散らかっていて全貌が掴めない。 うう、と唸りつつ布団を捲って、台所までふらふらと歩く。 奇跡的に何も潰さずに冷蔵庫までたどり着き、ドアを開けてペットボトルを取った。 「………はぁ」 音の無い空間に溜息だけが広がる。 カーテンから洩れた繁華街の光がぼんやりと煩雑な室内を照らしていた。 「そっか、もう、千尋さんと同い年。か」 早いよなあ、と一人呟く。 パーッ、とクラクションやブレーキ音がガラス越しに響いてきた。 ふと視界が揺れて、歪んで、滲んでいく。 「あれ?」 はらはらと涙を零してることに気付いて。気付いた途端、嗚咽まで出てしまって。 もう、何年経ったんだろう。 あの時の場景は忘れることが出来ない。 あの日僕が残っていれば。 ほんの少しでも早く忘れ物に気付いていたら。 師を、彼女を守ることが出来たのだろうか。 居たところで役に立たなかったかもしれない。 早く着いても間に合わなかったかもしれない。 それでも、仮定ばかりが次々に浮かんで、叶わなかった未来を思う。 吐き出すばかりの吐息が苦しくて、大きくしゃくりあげる。 ひゅう、と咽喉が鳴った。 ゴメンナサイ、と音にならない言葉を吐いて、床にへたり込む。 許しが欲しい訳ではないけれど。 慰めて欲しい訳ではないけれど。 「ごめんなさい、千尋さん」 僕はもう一度大きく息を吸って、止め処ない感情に任せたまま滂沱した。 ※千尋さんの命日です。身内の死は飲み込むまでに時間が掛かるものだと思います。 8:14 2007/09/05
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