人肌が恋しくなる。 そばに居るだけでは足りない。触れなければ満たされない。ずっと抱きしめて溶け合えたならそれ以上求めるものは無いと思った。大して寒くもない空調に震えて腕を肩に回す。一人では耐え切れない想いが徐々に沁み、苦しくなって縋る目を向けた。 「どうしたの?」 よく通る声が耳の中を巡る。他の人間が居るときには決して発せられない柔らかみを帯びた、声。ソレは廻り廻って脳へとたどり着き、やがて染み渡っていく。ああ、この声を誰にも聞かせたくないなという我儘が脳裏に浮かび、自分はこんなにも独占欲が強かったかと呆れかえった。 伸ばした手で袖を掴み、成歩堂を引き寄せる。 「どうしたのさ?」 成歩堂は同じ言葉を繰り返しながら、そっと頭を撫でた。節くれだった、少し長い指が髪を弄うように動いている。 「何か嫌なことあった?」 「そうではない」 「じゃ、前みたいに人肌恋しいとかそういうヤツ?」 「うム」 「図星かよ」 カラカラ笑う男を睨みつけると、ゴメンゴメン、と謝られた。 「まあでも、前みたいに強硬手段に出ないだけマシだけどさ」 そう言って、成歩堂はパッと手を広げた。 「おいで」 「ぬ」 「どうせ最終的には僕に抱きついてくるんだろ。だったら、おいでよ」 どこからその自信が溢れてくるのかよく分からないが、苦笑しながら手招きしている。 「嫌?」 「――嫌、ではない」 「じゃあおいで」 微笑みに引き寄せられるようにふらふらと胸に飛び込むとキツいほど抱きしめられる。 「キサマ、これでは逆ではないか」 「んー、いいんじゃない?」 「放せ」 「駄目」 嬉々として抱きついてくる成歩堂の胸を押し返すものの、ホールドされた状態では動かしようがない。 「今日は僕が人肌恋しいの」 「………初耳だが」 「そういうことにしとけよ、御剣」 苦笑いが浮かぶ口元に腹立たしさを覚えたものの、何か言っても言い訳がましくなるだろうと悔しくなる。それに言ったところで話を聞くような人間ではない。 「ぬかせ、この馬鹿者」 「素直じゃないなあ」 首筋に口吻けられて、身体を震わす。 「もっと僕に甘えなよ。御剣」 声音が変わる。籠められた意味にも気付く。 ゆるりと腕が腰を撫でた。 「こ――」 「明日休みだろ?」 「ム」 「構わないよね?」 気付けば押し倒されて、見上げる形になっている。 コレは多分嫌だと言っても無駄だろう。 「……仕方あるまい」 「うん、仕方ないからさ」 小さく頷いて了承の意を伝えると、成歩堂は満足そうに微笑んで甘ったるいキスをくれた。 ※甘え下手な御剣さんと、ソレを見て笑うなるほど君。バカップル最高。 7:09 2007/08/24
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