お願い傍に居て 傍に居て抱きしめて 手を差し伸べたら握り返してくれたこと。半ば諦めていた抱擁に応えてくれたこと。気付けば手放せなくなっていたこと。意識の半分以上を占めていたこと。 逃げられないこと。 逃げ出せないこと。 袖を掴んだ力の強さに驚いたとか。笑ったときの張りのある声だとか。二人きりの気まずさとか。弱さを隠そうとする癖だとか。その眉間のシワさえも。 どれもこれも僕の中に留まって、凝って、離れやしない。 何が狂わせてしまったのか。何で狂ってしまったのか。 踏み外したレールの外側はあんまりに荒れ果てて。取り残された場所にはあんまりに何も無い。踏み止まっても先は暗闇。救いも願いも何もかも犠牲にしながら進んだところで、待つ人など居ないと言うのに。 それでも足を引き摺って。まだ覚えているのは。忘れようもないのは。得難いのは。 貴方だけだと。 貴方だけだと。 呟き続けてるのも、最早どちらの想いだったのかもわからない。 ただ、残されたのは空虚だった。 「諦めちゃダメだよ、なるほど君。ミツルギ検事、生きてるから」 彼女が言った。 諦めるのは嫌なのだと。忘れるのと同義ではないかと叫ぶ。 取り残されてしまった自分ひとりがまたこうして居場所に拘っている。いっそ縛られてしまいたい思いに息苦しくて溜息を吐いた。誰も居ない家というのはこんなにも侘しいものだったかと思う。 暗く、広く、寒く。 肩を抱くような姿勢のまま壁際に座り込む。戻ってこないことを確信しながら、それでも戻ってきてほしいと身勝手な願いに動けない。 壁から伝わる冷たい感触に心苦しくなり、温もりを欲しているのだと気付く。 誰も居ないのはわかっているのに。 ※なるほど君2−3くらいかな。冥ちゃんに諌められた後くらいで。 9:53 2007/08/19
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