それは夏らしい青空で。 それでも風は清かだった。 「ん〜、やっぱり高原は違うよねえ」 成歩堂が横で首や腰を鳴らしながら、伸びをしている。 私はペットボトルの水を飲みながら、そうだな、とだけ返した。 自転車は近くの木に立てかけてある。自転車で来てるのは私たちくらいなもので、他はカップルやら家族連れやら皆景色を楽しんでるようだ。 「カメラ、持ってこればよかったかなあ」 「ム、何故だ」 「いや、だってほら真宵ちゃんたちにも見せてあげたいじゃないか」 「そうだな」 じっとりと汗ばんだ首筋を軽く拭って、暑い暑いと繰り返している。 日差しは正に頂点とばかりに燦々と照っており、私たちの座っている木陰はますます色濃く染まった。微か聞こえるセミの声は心なしか遠く聞こえる。きっとこの標高までは生息していないのだろう。風の抜ける音だけが耳に飛び込んできた。 空は青い。青く、澄み渡っている。 雲ひとつない青空に堂々と陣取った太陽は、容赦なく地表を照らしていた。 カアアアアンと突き抜けるマフラー音は峠を攻める二輪乗りだろう。一瞬にして通り過ぎ、もはや後姿さえ見えない。ふと、エンジンがひとつ啼いた。多分、先程の親子連れだ。きっと休日サービス中のお父さんがドライブだと微笑んでいて。子供は単純にはしゃいで、お母さんは少し困り顔で、それでも笑っているのだ。笑い声と、車の重低音は風音に溶けるように消えていく。 静寂が再び戻った。さわさわ、と草がそよぐ。 セミも鳴くことを止めて、耳に届くのは吐息だけだった。 「たまには」 「何だ?」 「たまにはこういうのも良いよね」 眼下に広がる景色をぼんやりと見ながら成歩堂が呟く。 さあ、と風が抜けて汗を含んだ髪が幾らか重そうに揺れた。 「まあ、このところ部屋の中に引き篭もってばかりだったからな。運動不足のキミには丁度良いだろう?」 「そうかもね」 クスクス笑いながら、空を仰ぐ成歩堂の横顔をジッと見る。 頬を伝う汗が顎を伝い、ぽたりと落ちた。 「また来よう。次は真宵クンたちも誘って、な」 「うん、そうだね」 よいしょ、と腰を上げた成歩堂が少しよろめいたのを笑いながら、手を伸ばす。 「サンキュ」 「休みすぎたか、成歩堂?」 少し残っていたペットボトルを渡せば、成歩堂は残りを飲み干した。カラン、とゴミ箱へ放る。ざああ、と風が巻いて、木立と共に影を揺らした。 「行こっか」 「うム」 陽は燦々と。風は飄々と。 サドルに跨り、漕ぎ出した車体はふらりと揺れて、坂を駆け下りた。 ※自転車話その2。ノーマルかな。ま、どっちでも良いです。 21:59 2007/08/21
|