「久しぶり」
「久しぶりだな、成歩堂」
目の前の男、御剣怜侍はそう言って持っていた鞄をひょいと投げた。
僕は慌てて鞄を受け止め、同時に思わず突っ込んだ。
「って、おい」
「荷物持ちでも何でもするんだろう。なら鞄を持て」
「あのなあ」
そして相変わらずのマイペース。
既にスタスタと歩き始める旧友の姿に何かを言う気力を失う。
「遅いぞ。何をやっている」
「はいはい」
そう重くもない鞄を抱えなおし、急いで御剣の跡を追った。
空港の駐車場は半端に離れているため、車は近くの空き地に止めてある。
そのことは前もって伝えてあったから、御剣は迷いもせずにそちらの方へ歩いていった。
「車の免許は取れたのか」
「まあね」
よもや検事を乗せるのに無免許とはいかない。
3日前に取ったばかりだよ、と伝えると御剣の眉間がぴくりと動いた。
「……大丈夫か?」
「まあ、事故ったらそれまでだよね」
楽観的にそう言うと、御剣が考えこんだ。
「いや、……しかし………有り得ん話ではない、か…」
「信用してないだろ」
「無論だとも」
即答され、少し身も蓋もない。
大丈夫だって、と御剣に笑いかけ、漸くたどり着いた車のトランクに荷物を放り込んだ。
助手席で御剣が固まってるのが分かる。
眉間をぴくぴくと痙攣させ、時折吐く溜息は暗く深い。
「どこが大丈夫なんだ、成歩堂」
「うーん、おかしいなあ」
こんなはずじゃないんだけど、と僕は笑った。
辺りは既に日が暮れて、暗くなっている。
しかし街灯の明かりは果てしなく遠い。人家も無いのかただただ深とした闇だけがある。
「迷っちゃったかな、もしかして」
「もしかしても何もあるかっ。明らかに迷ってるのだ、この馬鹿ッ」
額に手を当ててガックリと俯く御剣。
僕も笑ってはいるが、内心冷や汗だらけだったりする。
「どうしよっか」
正直なところ、カーナビすら搭載していない借り物の車では何の役にも立たない。
無論、僕自身も車は不慣れで地図すら用意していなかった。
「貴様に足を頼んだ私が馬鹿だった……」
街の明かりが朧に見える。
ぼんやりとした月明かりで見える御剣の表情は苦渋に満ちていた。
「とにかく応援を――」
ふと思い出したように御剣が携帯電話を取り出した。
ぱかり、と開いてキー操作をしようとした手が不意に止まった。
「おい、どうしたんだよ」
思わず画面を覗き込むと、僕も同様に止まった。
「圏外、だな」
「ああ」
これで応援は頼めなくなった。
「とりあえず元来た道を戻ろっか」
「そうしろ」
僕はギアをバックに入れて、元の道へと戻った。
コンクリートで舗装はされているが、誰も使ってはいないようなボロボロな道である。
「全く呆れた男だ。道ぐらいちゃんと調べておけ」
御剣が隣で憤っている。
それなら運転を替わってくれてもいいのにと思っていると、ギロリと睨まれた。怖い。大人しく運転していると僕はある事実に気がつき、サッと青くなった。
「御剣」
「なんだ」
不機嫌極まりない友人の声音に胸を痛めつつ、僕は現実を述べた。
「悪い、ガス欠っぽい」
「は」
ガソリンメーターはEを示しており、既にアクセルを踏んでも大した速度が出ない。やがて車は緩やかなカーブを曲がりきった辺りで、タイヤの回転を止めた。
僕らは車から降りて、辺りを見回した。
何もない。ただ暗闇だけが広がっていた。
「マズい、かな」
「こ」
この阿呆がっ、と叫んだ声が深とした空に響く。
携帯電話は先ほどと同じく圏外を示しており、僕は思わず頬を掻いた。
※馬鹿話。ダメだ、続きを考えると馬鹿すぎて書けないよ
22:11 2007/06/12
|