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【やさしい人】


僕の恋人は酷く冷たい印象を持っている。
涼やかな目元に整った鼻梁。輪郭もくっきりとしたラインで、全体的にスマートと言える。少し低めのよく通る声は相手のことなどお構い無しに、突き刺すような鋭さを持っている。
彼の職業は検事官で、犯罪者に厳正な罪を与えるために裁判を行う。
胸元に輝くのは秋霜烈日を現した、冷たい光を伴うバッジ。
それがよく似合うと思ってしまうのは僕の欲目に違いない。
「御剣ー」
御剣怜侍。それが彼の名前だ。響きさえも冷たさを感じられるなんて、よくよく名前と言うものは大事なのだと僕は思う。
「何の用だ」
眉根に深々と刻まれたシワは、ある意味彼のトレードマークだ。
相手を睨みつけるように眇められた眸は強く険を持つ。
だけど。
「仕事終わったんだろ。だったら呑みにいこうよ」
「ム、しかしソレは良いがキミの方は終わったのか?」
「終わらなきゃ誘わないだろ」
「そうか、ならば付き合うことにしよう」
その警戒だらけの表情をほんの少し和らげただけで、スゴク穏やかな顔になる。
「何を考えてるのか分からんが、そのニヤけた顔は止めたまえ。成歩堂」
僕の恋人は冷たい印象を持っているけれど。
僕にだけ見せるその顔は冷たさよりも優しく思えて。
「何って、御剣の事だよ」
「ならば尚更、表情を引き締めておくのだな」
ほんの少し、微笑んだだけで僕の意識を掻っ攫う。
「えへへ、キスしてもいい?」
「キサマ、馬鹿だろう」
「うん」
呆れたような、それでも真っ赤に染まった顔が小さく縦に頷いた。
僕らは柱の影に隠れて、触れるだけのキスをした。

※バカップル話。

6:58 2007/08/10

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