「事件の詳細を言え」 「ハッ」 目の前に転がる遺体を見ても何の感慨も持たない。 随分醒めた視線をやるものだと、つくづく己に感心する。 が、その代わりのように状況説明になるといつも嫌悪感を伴う。 この死体に成り果てたモノにもかつては家族や恋人がおり、自分と同じように生活してたのだと思うと急に生々しく感じる。そして自然と己に当てはめた思考が始まるのだ。被害者の生活を己でトレースしてしまう。嫌なことだと自分を咎めるが、それでも止めることは出来ない。 「―――ということであります」 「うム。では捜査に戻れ」 「ハッ、了解であります」 止まらない思考はやがて己の精神を蝕んで、ボロボロにしてしまう。どんなに幸福な人生であろうと、死んでしまえば終わりなのだと厭世観さえ生む。 私はギュッと左腕を押さえて、疼痛を誤魔化した。 そうだ、いずれ、私とて、あのような、姿に―― 「あれ、御剣? 何、オマエもしかして、この事件の担当?」 急に飛び込んできた声音にビクリと身体を震わすと、目の前に見慣れた男が立っていた。 「成、歩堂」 「おっどろいたなあ。まあ、別にいいんだけどさ。あ、そうだ。折角だから少し調査をさせて――――御剣?」 「……勝手に調査でも何でもしたら良かろう」 「あ、おいちょっと。オマエ、顔色悪すぎ―――」 明滅する視界がいつの間にか暗転する。ぐらりと身体が傾いだ。成歩堂が何か叫んでいる。案外私も弱いものだ、と呟いて呆気なく無意識下へと落ちていった。 ※死体に慣れるってのも大変そうだ。 18:50 2007/08/18
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