花火大会に行こうよ、と真宵ちゃんが言って。
春美ちゃんが、見たいですなるほどくん、と同意して。
それならばとダメ元で誘った恋人はちょうど休みのようで。
僕らは事務所で待ち合わせをして、少し離れた地区の花火大会へ行くことになった。
真宵ちゃんはどうやらとっておきの浴衣があるらしく、いそいそと用意を始めている。春美ちゃんも同じように薄いピンクの浴衣を着て、真宵ちゃんに帯を締めてもらっていた。フリフリ揺れる兵児帯が可愛い。真宵ちゃんはどうやら白地に紫の花(杜若だよっ、と真宵ちゃんがむくれた)の浴衣のようだ。少し細かい柄だけど、細いから良く似合っている。下駄や巾着、ついでに団扇――トノサマンのヤツだ――を手挟んで、カランと下駄を鳴らす。
「なるほど君も浴衣着ればいいのに」
「僕は良いんだよ」
こちらを睨みつける御剣を横目に見ながら、僕は苦笑した。御剣はとうに着替えており、青無地の浴衣(コレは濃藍と言うのだと怒られた)を身に纏っている。
「だってミツルギ検事も着てるじゃない。なるほど君だけ足並み乱してどうするの?」
「浴衣なんて持ってないんだからしょうがないじゃないか」
チッチッチ、と真宵ちゃんが指を振りながら微笑んだ。
「そういうと思ったから、ホラ、コレで良いでしょ?」
そう言って取り出したのは男物の浴衣だった。
「どうしたの、コレ」
僕が驚いて聞くと、真宵ちゃんは嬉しそうに答えた。
「ミツルギ検事に頼んで持ってきてもらったんだよ」
「御剣に?」
「真宵クンに頼まれたのでな。まあ、馬子にも衣装というところだ。着てみればいい」
「何でもいいから、早く着替えるっ」
真宵ちゃんは僕の手に浴衣を押し付け、所長室へと追いやった。ううん、用意周到だ。浴衣は青っぽい灰色に細かい白が飛んでいる。藍鼠に飛白と呼ぶらしい。細かい指摘だなあ。よくよく見ると布地に刺繍が施されていた。帯は赤っぽい、まあ一般的な角帯だけど布地がシッカリしている。多分、いやほぼ確実にコレは高い。ううん、相変わらず変なところで凝り性の男だ。まあ浴衣なんて着るのも久しぶりだから、僕も少し浮かれ気分で着ることにする。が。
「ゴメン、御剣。浴衣の帯締めて」
「一人で着付けも出来んのか、キミは」
やれやれ、と首を振りながらも後ろに回る。どうやら締めてくれるようだ。
「だって着る機会なんかないだろ、普通」
「一般常識として着付けくらい覚えろ」
ギュッと締められて、息が詰まる。
「ちょ、ちょ、と。く、くるしい」
「ム、すまない。つい力を込めてしまった」
「オマエ、確信犯だろ」
「さてな」
偉そうに笑う御剣の声にムッとしたが、背後を取られてる以上何も出来ない。うう、後で覚えてろ。
「何か言ったか?」
「何でもないよ」
ようやく帯を締めてもらって、準備をする。下駄は――履き慣れてないんだけどな。
「下駄が嫌なら雪駄もあるが」
あるのかよ。
思わずツッコミそうになるものの、どうにか押し止める。というか。
「別に浴衣じゃなくて甚平でも良かったんじゃないのか?」
素朴な疑問を投げかけると、分かってないなと御剣が首を横に振った。
「キサマ、浴衣より甚平の方が萌えると――そう言うつもりか?」
知らないよ。
思わず頭を抱えて蹲ると、いつの間にか僕の背後に近づいていた真宵ちゃんがポンと肩を叩いた。
「仕方ないよ、なるほど君。今日のスポンサーはミツルギ検事だもん」
「そういう理由かよ……」
僕に浴衣を着せたがったのはそういう理由もあるらしい。
深く。僕は深く溜息を吐いて、まあそういうこともあるよなと諦めることにしたのだった。
※花火行ってないよ。浴衣語りで終わってるよ
20:03 2007/08/16
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