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【そんな日常】


近況を聞きに成歩堂なんでも事務所に足を踏み入れたのは、丁度15時を回った頃だった。
ドアを開けると、成歩堂がソファに座って何か読んでいるのが見える。
A4の紙の束のようだ。『機密』とポップに書かれた表紙がなんとも馬鹿げてる。
「いらっしゃい。なんだ御剣か」
「ああ、失礼する。今日は一人なのか?」
「みぬきは学校。オドロキ君はキミのとこの響也君に攫われっぱなし」
眉根に皺を寄せて、私は深い溜息を吐く。
「最近見ないと思ったら、そういう事情か」
「ん、まあ事件だとか何だとか言ってたから忙しいだけだと思うけどね」
少なくとも僕らみたいな関係じゃないよね、と成歩堂はカラカラ笑った。
「ま、いいや。何か飲む? 大したもの出せないけど」
「いや、気を遣わなくていい」
「そう? ならいいけど」
成歩堂は書類を片手にブツブツと独り言を再開した。意外と重要なものらしい。
私は彼の座っているソファに近づいて、背後から覗き見る。
「さっきから何を読んでるんだ?」
「前、オマエに頼んだ件があるだろ。その関係書類」
「ああ、例の企画書か」
「そ。実行委員長ってのも大変だよね。いろいろやることがあってさ」
「手伝えることがあるのならばいつでも手伝うぞ」
「大丈夫だって。キミだって忙しいんだろ?」
「ム、仕事ならばどうにか一段落つけてきた」
パラリ、と用紙を捲る音が聞こえる。
どうやら書類を見ながら、会話をしていたものらしい。器用なことだと私は感心する。しかし、成歩堂は書類を捲るその手を止めて振り向いた。
スーツ姿でない彼の姿はいまだに違和感を持ってしまう。
私服を纏った成歩堂は驚くほど気だるそうな表情で、ソファの背中に凭れた。
「じゃなくて。また海外研修の話が出てるって聞いたんだけど」
「ああ……知っていたのか。今度は南欧の辺りという話だ。また2ヶ月ほど会えなくなるな」
「僕なら平気。で、いつ頃行く予定?」
「用意が出来次第、すぐにでもという話だ。尤も書類上の手続きの関係で1週間ほど待たねばならんのだろうが」
「そっか、来週行っちゃうんだ」
「すまない」
「仕事だろ。謝る必要はないよ」
首を振りながら成歩堂が書類をテーブルに置いた。
「それよりさ、会うのも久しぶりなんだけど」
ぐいっと見上げる視線が妙に艶っぽい。
「御剣」
おいでよ、と手招きされて成歩堂の隣に座り込む。自分の行動に苦笑しながら乞われるままに唇を重ねた。
成歩堂の腕が私の首と頭を抑え、私の腕は成歩堂の背中と腰を抱え込む。
触れるだけだった唇を甘噛みされて思わず吐息がこぼれた。
開いた口に成歩堂の舌が侵入して、歯列をなぞる。
「ん……ふ……」
荒くなってきた鼓動を押さえようと息を継ぐ。が、ろくに呼吸も出来ないまま舌が絡められた。水音が室内を淫靡に染める。
衝動に耐え切れなくて、互いの身体を抱き寄せるように腕に力を込めた。
パサリ、と落ちる音がした。
テーブルに置かれたはずの書類がスーツに引っかかって落ちたものらしい。
成歩堂は唇を離すと、書類を拾い上げ、ハタハタと埃を払っている。
「成歩堂」
「みぬきがもうすぐ帰ってきちゃうから」
私が思わず名前を呼ぶと、続きは後でね、と成歩堂はニッコリ笑った。

※馬鹿話。4−2後くらい。バカップル。主導権はなるほど君。

8:16 2007/06/18

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