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【ひまわり】


「もう夏だねえ」
僕は心地よい風を受けながらそう言うと、うム、と顰め面で返事をされて。
幸せかもね、と僕は声に出して笑った。

明日こそ完全休業日だと決めていたので、今日中に仕事を終わらそう。
そう決めた僕は重い足を事務所に向けて歩き出した。
本当ならやらなきゃいけない書類作成だとか、一週間後に控えている審理の準備だとか。いろいろあったけど、僕は疲れ果てていたのでどうにもならなくて放り出すことにした。午前様で帰るのも彼是3日は続いている。
日付が変わりそうな時間に帰宅というのなら、もう1ヶ月以上そんな感じだ。
休みなんかあってないようなもので、休日だって事務所は休みだけど出てきて書類と睨めっこ。
いい加減にしてくれよ、と僕は自分でも珍しく弱音を吐いた。
外は人の気も知らずに青空が広がっている。今年の梅雨は空梅雨だ。ずっとずっと晴れ渡っている。
「休みたいなあ」
自由業だから別にいつ休みでもいいんだけど、ソレは依頼人に対して失礼だと思っているからどうにもなかなか休めない。
どうしよう、などとボヤきながらうだうだと仕事の能率がサッパリ上がらない。
不意に一本の電話が掛かってきた。
携帯電話から珍しい人物からの電話であることを知らせる着メロ。僕は慌ててジャケットのポケットから手探りで携帯電話を取り出して、通話ボタンを押した。
「はい、成歩堂――」
「遅い」
聞こえてくる不機嫌な声に僕は苦笑しながら、なんだよ、と返事をする。
顔が自然に緩んでくる。真宵ちゃんが居たら絶対揶揄われてるよな。僕はそんなことを考えながら、会話を続けた。
「ゴメン、御剣。今、仕事中でさ」
「何? キミは今日こそ休むと言ってなかったか」
「いや、コレだけやったら帰るつもりなんだけど」
大馬鹿者、と電話口で怒鳴られて、思わず耳を遠ざけた。
「昨日も同じ事を言っていたではないか」
「ホント、ゴメンってば。埋め合わせは必ずするから」
「話にならんっ」
そう言って電話は一方的に切れた。
無機質な発信音を聞きながら、途方もなく重苦しい溜息を吐く。
僕だって会いたい。
持っていた書類を脇に置いて、机に突っ伏した。
ひんやりとした感触が心地よい。
カチコチと時計の音だけが室内に響いている。
ぼんやりと書棚を見ているうちに、段々と意識が薄れた。

「……歩堂。目を覚ませ、阿呆」
「へ?」
再び目を開けたときには事務所内は薄暗かった。
窓から洩れる日差しは仄かに赤みがかっている。
もう夕方近いんだ、と思いながら顔を上げると、御剣が立っていた。
「うわ、御剣。いつ来たの!?」
「15分ほど前だ。電話をしたが取らんのでな。こうしてわざわざ私自身が出向いたわけだ」
やれやれとばかりに首を振っている。
「悪かったって言ってるだろ。もう少しだからさ」
「その量が少しか、成歩堂。キサマは自分の限界くらい把握しておけ」
バン、と机を叩かれて、僕は思わず首を竦めた。
眉根がオソロシイ勢いで深い谷を作っている。法廷で見かけるような――いや、それより凶悪な顔つきになっていた。ヤバイ、相当怒ってるなコレは。
「ええと。僕はどうすれば――」
「――ッ。ええい、キサマは」
御剣が僕のネクタイをグイッと掴むとそのまま引き寄せた。
当然引っ張られた僕は腰を浮かせて不安定な体勢になる。慌てて僕は机に手を付いて、首を締め上げられるのを阻止した。
「痛い痛いっ。ちょ、離せよ」
「断る」
「御剣ッ」
「そんなに目の下を真っ黒にしてまで仕事が出来ると思ってるのか、この馬鹿者が」
一息に言われて、ようやく僕は彼が心配しているのだと気付いた。
そして同時に顔が妙にニヤついてきて、どうしようもない。
「何だ」
「いや、うん別に何でもないけどさ」
「ハッキリ言いたまえ」
「心配してくれてるんだなあって思って、ちょっと嬉しい」
「馬鹿を言うな。その、私はだな」
「御剣」
「ム」
「ありがと」
僕がそういうと目の前の男はネクタイを掴んでいる手を放し、腕を組んだ。
赤面しているところを見ると盛大に照れているらしい。
僕は机を回り込んで、御剣の隣に立った。緩んだネクタイは引っ張って外す。しゅるり、と衣擦れの音がした。
「帰ろっか」
「……うム」
御剣が所長室を出るのを見ながら、僕もソファに掛けっぱなしだったジャケットを取った。ブラインドは半分くらい開いていたが、まあ大丈夫だろう。
事務所から出て鍵を閉め、階段を下っていく。
事務所の前には目立つ赤い車が止めてあって、僕は車の助手席にいつもの通り乗り込んだ。
「私の部屋でいいだろうか?」
つっけんどんに喋ってはいるが、珍しく御剣から誘っているのだと気付いた。
僕は異議を唱えることもなく、運転席の御剣に抱き付いて。
「ドアくらい閉めろ。成歩堂」
慌てて車のドアを閉めたのは言うまでも無い。

※眠いので勘弁してください。多分、ナルミツ。でもやり取りだけだとミツナル。

0:19 2007/06/14

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