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【夜も終わり】


「わあっ」
なんだかよく分からない夢を見て、なんだかよく分からない感情に駆られて。
起きたときにはまだ夜中の2時。
何となくいたたまれない気持ちになって、僕は部屋を飛び出した。
夜中といえど、人は歩いている。
僕はうっかり寝巻きのまま飛び出したことに気付いたけれど部屋に戻る気力がなくて、ふらふらと階下に置いてある自転車に跨って走り出した。
自転車はカラカラと音を立てながら、走り続ける。
ペダルを踏んでいる感触も分からないまま、僕は必死で漕いでいる。
息がハアハアと荒れてくるのが分かるけれど、それもどこか夢心地だ。
もう少しだ、と頭のどこかで呟いている。
僕は自分が何処を目指してるのかサッパリ理解しないまま、ただ自転車を漕ぎ続けた。

気付いたときには僕は官公庁から近いデザイナーズマンションの前に立っていた。周りはまだ開発中なのか、ぽつねんと建っている。
僕は自転車をガードレールに乗り捨てて、急いで入り口へ走っていった。
セキュリティのプッシュボタンを勢いよく押して、エンターキー。
ゆっくりと開く自動ドアを待てなくて、身体を捻りながら入り込んだ。
エレベーターは運良く1階にあったけど、僕は脇の階段を駆け上がる。
動かなければ、どうにも自分を押さえられないようなそんな心持ちだった。
踊り場をいくつか回って、僕は目的の階に辿りつく。
廊下を走って、一番奥の部屋を目指した。

インターホンは目の前にあった。
けれど僕がそれを押す前にガチャッとドアノブが回って、扉が開かれる。
「成歩堂?」
御剣、という言葉は声にならなかった。
僕は迷わずその胸に飛び込んで、抱きついた。
「……部屋に入りたまえ」
御剣はそう言って、僕を部屋に引きずり込む。
ドアにロックを掛け終わると、僕はようやく御剣から離れた。
「こんな夜中にゴメン」
「全くだ」
玄関先でへたりこんだまま、僕は御剣を見上げている。
御剣は大きく溜息を吐いて、片手でこめかみを押さえていた。
「キミは今、自分がどんな表情なのか分かっているか?」
僕が答えるより先に御剣がしゃがみこんで僕の頬を撫でている。
ひんやりとして気持ちいい手だな、と思っていると今度は唇が寄せられた。
僕は半ば反射的に口を開いて、御剣の首に手をやった。
入り込んでくる舌に自分の舌を絡めて、深く深く口付けをする。
唾液の混ざり合う音が室内に響いて、妙に気持ちが昂ぶってくる。
ようやくお互いの口唇を離して、僕はぼんやりと御剣を見た。
「成歩堂、ソレは誘ってるのか?」
「へ?」
真っ赤な顔をした御剣に僕は間抜けた返事を返す。
そして、ああ確かにこの状況は誘ってると取られても仕方がない状況だな、と僕はようやく思い至った。
「え、いやあのさ。実は」
「言い訳は聞かん」
「わあっ」
そう言って、御剣は僕を押し倒して。
まあ、アレやソレやそんな感じの夜になった。

僕は夜が嫌いだ。そして夜を望んでいる。
ひとりの夜は長いけれど、二人ならとても短い。
だからいつだって二人で夜を過ごせればいい、なんて。
とても甘っちょろいことを考えてしまうんだ。

※うっかりなるほど君。そして馬鹿話。

12:55 2007/06/13

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