「で、結局カワヅさんの勘違いだったんだよな?」 「そうですよ。もうっ、みぬきとキタキさんのパンツを間違うなんてっ」 「いやいやいや、そっちより盗まれたほうを怒れよ」 「うう、だってほら。ちょっとショックじゃないですか、うら若き乙女としては」 とぼとぼと人情公園を横切りながら、俺たちは事務所への帰路に付いている。 隣で歩いてるのはみぬきちゃん。 俺が働いている『成歩堂なんでも事務所』の所長兼タレントだ。 本人曰く、マジシャンなんだそうだが、如何せん俺にとっては色物女子中学生といった体だったりする。 「あ、そうだ。今日はみぬきがゴハンの当番だ」 みぬきちゃんの足がハタ、と止まる。 ううん、と唸っている所を見ると全く考えていなかったようだ。 「メニュー考えてないの?」 「うう、実はそうです」 「余りもので何か作ればいいじゃないか」 「みぬき、そういうの苦手なんですよ。大体そういう時はパパが作ってくれるから」 ペロリと舌を出して笑うみぬきちゃんに俺はやれやれと溜息を吐いた。成歩堂さんが親バカだとは知っていたけれど、まさかそこまで過保護だったとは思いもつかない。 「冷蔵庫の中身は思い出せる?」 「ええと、キャベツと鶏肉とジャガイモ、人参、玉ねぎ――」 「じゃあ、カレーでいいんじゃないかな。別に迷う必要ないだろ?」 「カレーはパパの専売特許だからあんまり作りたくないんです」 「そういうものか?」 「そういうものなんですっ」 だからそれ以外で、とみぬきちゃんが訴えてくる。 まあ、材料が汎用的に使えるものだから本当に何でも作れるんだけれども。 「あ、そういえばパパがサラダで使ったセロリが余ってますよ。オドロキさん」 「セロリかあ」 俺は幾つかのメニューを頭に浮かべて、考えてみる。 「寒いから温かいものが食べたいですねえ」 「温かいものねえ」 ふと脳裏にテレビで見たCMを思い出した。あれは美味しそうだったよな。 「みぬきちゃん、シチューなんてどうかな?」 「オドロキさん、ナイスです。みぬきの好物ですッ」 だったら最初に思いつけよ、なんてことは言わずに俺はただ苦笑する。まあそういうところがみぬきちゃんらしいんだけど。 「ルーはあるの?」 「うーん、見た覚えが無いですねえ」 「じゃ、生クリームと小麦粉は?」 「それならありますよ。常備してますから」 生クリームを常備する芸能事務所とは一体如何なものかとも思うけれど、まあ成歩堂さんがそれなりに料理をするからあってもおかしくはない。 「じゃあシチューにしよう。俺も一緒に手伝うからさ」 「パパを驚かせましょう」 パッと顔を輝かせて、小走りに事務所へ向かうみぬきちゃんの後を追って、俺も事務所へと足を向けた。 ※オドロキ君の料理教室がきっと始まるんでしょう。みぬきちゃんの危なっかしい包丁の使い方から特訓です。鶏肉は水炊き用の骨付きぶつ切りのヤツでも結構美味いです。マッシュルームがあるなら入れてやってもいいかもしれません。っていうか、牛乳も生クリームも切らしてるよ、私。 17:00 2007/10/24
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