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【抱き枕】


「ねむ……」
カタカタと叩いていたキーボードの手を止めて、俺は目を擦った。
さっきから上手く焦点が合わないと思ったのはやはり眼精疲労からだろう。
椅子に凭れて大きく伸びをすると同時に大きな欠伸が飛び出した。
やはり、疲れている。
「もういいや、寝よ」
ちかちかと点滅するディスプレイの電源をオフにして、俺は仮眠用のベッドにもぐりこむ。
布団が暖かくて気持ちいい。
あっという間に意識は落ちて、俺はそのまま眠ってしまった。

カーテンの隙間から入る光が眩しくて、目が覚めた。
ぼんやりと窓を見て、ああもう朝だ起きなきゃと考える。
が、身体が動かない。疲労でもう駄目かなあなどと考えて寝返りを打つと、壁ではなく服が目の前に飛び込んだ。
「ん、え?」
目の前の服は呼吸に合わせて上下している。
俺は恐る恐るその服の持ち主の顔のほうを見やる。この事務所の主である、成歩堂だった。

声にならない悲鳴を上げて、とりあえず動悸を抑える。
状況の確認をしなければ何も始まらない。
とりあえず成歩堂は熟睡してるようだった。寝息がまだ聞こえてくる。
普段被っているニット帽は脇に置かれて、珍しく髪の毛が見えた。
って、俺は何を見てるんだと自分にツッコミを入れる。
何はともあれ目が覚めてしまったからにはベッドから早々に抜け出そうとして。
「あれ?」
いつの間にか成歩堂の腕が伸ばされて抱かれてしまっているようだった。
枕か何かと勘違いしてるのだろう、本人は相変わらず寝ている。
勘弁してくれと思いながら、俺はちょっとずつ身体をずらして腕から逃げようとした。
が、体格が違いすぎてどうにも動かない。
ううん、と迷っていると成歩堂が寝返りをうって軽く圧し掛かられた。
普段の物腰で騙されてるようだが、案外成歩堂は体格が良い。
王泥喜本人と比較すると丁度一回りくらい違ってしまう。
ということは体重も勿論重いということになるわけで。
「重い重い重い重い」
思わず手で支えてしまったことを後悔しながら、体重と抗う。
15分くらいそうして奮闘していたのだろうか。
半ば押しつぶされるような状態で呻いていると、ようやく成歩堂さんも起きてきたらしい。
「な、成歩堂さん。重いので退いていただけると大変有難いんですけど」
「ん?」
ふああ、と欠伸をしながら瞼のあたりを擦っている。
まだ寝惚けてるのかと、俺は段々痺れてきた腕で支えながら冷や汗をかく。
そろそろ腕が限界に近い。
「あ、オドロキ君か。ゴメンゴメン」
全く感情の篭ってないような声音で呟くと、ようやく成歩堂さんは俺の上から退いた。重かった。そして腕の感覚が麻痺してる。俺は転がるようにベッドから抜け出すと、成歩堂さんの寝息がまた聞こえてくる。
「……余計に疲れた気がする」
俺はそうぼやくと、寝癖の付いた頭を掻きながら仕事をするためにパソコンの元へと歩いていった。

14:34 2007/06/13

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