「みつるぎさんのこと?」 「うん、御剣検事だろ。あの」 「いい人ですよ」 「そうじゃなくて」 みぬきちゃんが少し首を傾げる。 そして何か思いついたように手のひらをぽん、と叩いた。 「そうそう、パパの恋人」 「だからそうじゃなく――― へ?」 思わず間の抜けた声を出してしまったことは否定はしない。 否定はしないが仕方なかった、と自己弁護をさせてもらいたい。 とにかくオレの思考が一瞬ならずも止まってしまったのは事実だった。 「ねー、パパ。みつるぎさんってパパの恋人でしょ?」 みぬきちゃんが少し離れたところで御剣検事と話していた成歩堂さんに声をかける。 オレは慌てて口を塞ごうとしたが、時すでに遅し。 案の定、御剣検事は硬直していた。 「おいおい、御剣の奴が固まっちゃったじゃないか」 そう言って苦笑する成歩堂さんにみぬきちゃんが頬を膨らませた。 「だって前に大切な人だって言ったじゃない」 そしたら恋人って事だよね、と言い放つ。 一瞬静まりかえった事務所内で成歩堂さんは顎をさすって、ふむ、と呟いた。 「そうとも言えるのかなあ」 「言えるかッ、阿呆ッ」 ようやく復活した御剣検事がドスの利いた声で唸りながら、成歩堂さんの頭を思い切り叩いた。 眉間には深い谷間が出来ており、怒りの深さを物語っている。 「子供に何て事を吹き込んでるんだ、この馬鹿者がっ」 「御剣、苦しいって」 胸倉をがっちりと締め上げて、御剣検事が怒鳴る。 半目開きの目は据わっており、何と言うか、怖い。 「貴様は」 「待て待て待て。とりあえず締め上げるの待った」 「知るか馬鹿ッ」 段々と成歩堂さんの顔色が青くなっていくのが分かる。というか既に青というよりビリジアンだ。 「みつるぎさん、パパ死にそう」 みぬきちゃんがのんびりとした口調で言う。 こんな状況でそんな余裕はオレには無い。 しかし、御剣検事はようやく気付いたように成歩堂さんの襟元から手を離した。 咳き込む成歩堂さん。怒り冷めやらぬまま見下す御剣検事。 なんとなく声が掛けづらい。 「みぬき君もこの馬鹿の言うことばかり信じるなとあれほど言ったろうに」 「えー、みつるぎさん。パパの恋人じゃないの?だってたまに家に来て――」 「こらこらみぬき、これ以上言うとパパ本当に殺されちゃうから止めてくれないかな。頼むよ、な」 成歩堂さんに口を押さえられてもごもごと言葉が濁る。 御剣検事はというと、顔面を紅潮させた上に眦を吊り上げてる。握られた拳が若干戦慄いているように見える。それを正面で見て笑える成歩堂さんは本当に凄い、とオレは思った。
ふいに御剣検事がこちらを見やった。真正面から睨まれ――もとい、見据えられて思わず姿勢を正す。
御剣検事が咳払いをして、ぽつりと言った。 ※オドロキ君視点。パパと検事は娘公認です。そして事務所の家事一切はほぼオドロキ君が行ってます 22:39 2007/06/12
|