【Y:yew】6:25 2007/09/02 蝉が鳴いていた。 夏休みの小学生がそこかしこを走り回っている。 空はイヤになるほど晴れ渡っていて、燦々と日差しが照りつけていた。 「アンタも墓参りかい?」 「ゴドー検事……」 「全く。他人には見られたくなかったんだがな」 「僕も、ですよ」 陽炎すら揺らめいている夏の墓場は、酷く滑稽なもので。 果たして現実なのか白昼夢なのか分からないほど、浮遊しているような感覚に陥ってしまう。 「千尋さんの命日なら来月ですよ」 「知っている」 「じゃあ何で」 「アンタと同じさ、まるほどう」 そう、僕は知っている。 「似たような理由、みたいですね」 「まあな」 線香の煙が棚引いて、揺らぎながら消える。 「千尋さんが、最後に法廷に立った日……」 「先輩弁護士として、な」 「僕は……」 「許す許さねえの問題じゃないぜ。アンタはこの先ソレを背負っていくんだからな」 「知ってます」 「なら、オレの気持ちも分かるだろ?」 「ええ」 額の汗が流れて、顎を伝い、地面に落ちた。ぽたり、と地面に滲みて、いつの間にか気化していく。濡れた後など微塵もなく、消えてしまう。 雨のように、蝉の声が降ってくる。ジワジワと煩かったはずの声は風景に紛れて、消える。確かに鳴いているはずなのに、脳は音として認識をしてくれない。聞こえないのなら、届かないのなら。 それは無いのと同じことだ。 「何も死に方までオレの真似をすることは無いんだぜ、コネコちゃん」 ぽつりと零れた声が耳に染む。 聞かせるつもりはないのだろう。それでも無残に切り刻むように。 言葉は、思考に、間違いなく、刃を立てる。 「まあ、この死に損ないに比べれば、楽に逝けたのかもしれねえが、よ」 ゆらりゆらりと存在が揺れた。 「僕があの時、事務所に残ってれば………」 「まるほどう」 風がそよいで、木立が揺れる。 ざわりざわりと影も揺れる。 「後悔なんざ今更だろう?」 フッと口元に笑みが浮かぶ。 自嘲の笑みだ。 「アンタは今からだろ。オレは済んだ」 じゃあな、と一言だけを残して、ゴドー検事――神乃木さんは立ち去った。 僕は何も言えず、ただ立ち尽くすだけだった。 ※墓参り。お互い罪悪感でいっぱいなんだろうなあ。「〜たら」「〜れば」みたいな考えがぐるぐる回っちゃって、どうしようもないなるほど君と神乃木さん。二人とも千尋さんを慕ってたから尚更。それでも年の功だけ神乃木さんの方が大人です。よくよく考えると千尋さんと神乃木さんって最期に関しては共通点が多すぎてどうしようもないのですよ。そこがまた切ないなあ。 |