【H:hero】15:26 2007/09/08
「人を救うだと? そんなこと出来るものか。我々はヒーローではない。ただの人間なのだよ」
違う。
僕は確かにキミに救われた。あの時。あの場所で。
誰もが僕を疑って、信じてもくれなかったあの学級裁判で。
キミはあの時から、僕のヒーローだったんだ。
「よく人を救うなどと烏許がましいことが言えたものだ。人が、たかが人間ごときに他人など救えるものか。精々、自分を救う事しか出来ないのだよ。それも、ただの自己欺瞞だがな」
「うん、そうだね。その通りだよ」
ただ僕はあの時救われたんだ。
キミの中に僕を救うという気持ちが無かったのだとしても、僕は確かに救われたのだと思ったんだ。
「何が言いたい。キサマ、今更私のことを救ってやったなどと言い出すのではあるまいな」
「違うよ」
僕も今はキミを救ったなんて思ってない。
キミは自分の力で自分を取り戻したんだ。僕の力なんて欠片たりとも使わずに。
「もういいよ。これ以上口論してもムダだろ」
「話を途中で終わらせるつもりか、成歩堂」
ちらりと覗く友人の顔には深いシワが眉間に刻まれている。
多分、怒ってるのだ。
「所詮、他人事と言うつもりか?」
「他人事だって言ったのはオマエだろ」
「ム」
どうせ他人事。
目の前に居るこの親友のことさえ分かりはしない。
自分の事だって、ロクに理解して出来てないのに他人を救うなんて出来るものか。
「だから、もうこの話は止めてくれないか。御剣」
ただただ自分を許せない。
救う救わないなんて、そんなことが出来るのはテレビの中の虚構だけだ。ヒーローだけに許された特権。
「僕は、これ以上キミの質問に答えることは出来ないよ」
そもそも答えを持ち合わせていないのだから。
僕がそう言うと、御剣は黙り込んで、静かに俯いた。
夜の事務所は酷く静かだ。
表通りから少し離れた住宅街では仕方ないのかもしれない。
車のエンジン音すら聞こえず、ただただ静寂が広がる。
「………だが、私は」
ぽつり、と言葉が洩れて室内に広がった。
フッと見上げると、御剣が存外近くに居ることに気付く。
「少なくとも私はあの時、キサマに救われたと思っていたのだよ。キサマは信じるとぬかしているだけだったがな」
「僕は、キミの言うことを信じ切れなかっただけだよ」
「同じことだ」
偽りも理も真実さえ向いていれば同じこと。
「ハッ、一瞬でもキサマと父を重ねて見てしまった自分が腹立たしい」
「え?」
「キサマも精々生活に困窮しない程度に精進することだな、成歩堂」
フフン、と笑う親友は偉そうに腕など組んで僕を見下ろしていた。
人を救うことは出来なくても、信じることは出来る。
「………オマエが居なけりゃ裁判も楽に勝てるんだけどな」
「勝ち負けではなかろう」
「まあね」
僕は大きく溜息を吐いて、それからニッとふてぶてしく笑って見せた。
※2をプレイ中なので。というか、終わらせる気があるのか私は。ヤツらのやり取りひとつに止まって何か妄想してる模様。