【077:知らない言葉】13:23 2007/12/09
キミに逢いたい。
キミの声が聞きたい。
キミの肌に触れたい。
キミに、問いたい。
「何で帰ってくること言わなかったんだよ」
「ム、キミに報告する義務があるとは到底思えないが何か不満でもあるのだろうか?」
「当たり前だろ。真宵ちゃんたちにはメールで連絡しといてさ」
「ウム、それで十分ではないか」
「フザケるなよ、馬鹿」
「キミに馬鹿呼ばわりされる言われはないぞ」
「馬鹿なんだから馬鹿でいいじゃないか、バーカ」
「・・・・・・なるほど君、大人げないよ」
真宵ちゃんに呆れた声でそう言われて、僕は流石に子供じみた所業だったかと反省する。とは言え、涼しい顔をした御剣を目の前にするとどうしても感情のコントロールが上手くいかない。
「ほら、ミツルギ検事も疲れてるんだから早く戻ろうよ」
「みつるぎ検事さま、事務所でよろしいのですよね?」
「ム、そうしていただけるとありがたい」
僕がむっつり黙り込んでいると、非難めいた目で真宵ちゃんと春美ちゃんが僕を睨んだ。
「いい加減機嫌直してよっ」
「みつるぎ検事さまをお待たせして失礼ですわっ」
「・・・・・・分かったよ」
確かにこのまま空港のラウンジに立ちっ放しというわけにも行かない。僕は渋面を作りながらも、とりあえず車を置きっぱなしの駐車場へと足を向けた。
僕がレンタカーを運転している間、後部座席では真宵ちゃんと御剣がトノサマンの話で盛り上がっていた。助手席で大人しく座っている春美ちゃんも話に混じりたいようでちらちらと後ろを振り返っている。
「そうなんですよ、15話目のトノサマンの切なさが堪らないんですよねー」
「うむ、それに続く16話もなかなかアクションがキレて楽しめるぞ」
「ヒメサマンの設定もこっそり丙に続きましたしねー」
「ふふ、実はトノサマンの裏設定もヒメサマンに生かされているのだよ、真宵クン」
「ええーーっ、あたし気付かなかったよー」
年の差というか世代の差というかそういった諸々のものを全く感じさせない二人の会話は内容さえ考えなければ仲の良い兄妹というかカップルというかそういうものにも見える。あまり口数の多い方ではない御剣がこうも生き生きと話してる姿もそうそう見るものではないから、少し悔しいような羨ましいようなもやもやとした心持ちになってくる。
「なるほど君、次の角は曲がらないのですか?」
「え? あ、ああゴメン、春美ちゃん」
ウインカーを出して、僕は右折車線に入る。
もう少しで事務所に着くな、と考えた所でふと思ったことを聞いてみた。
「御剣、オマエ自宅じゃなくていいのかよ」
「ム、構わん。というよりも研修前に自宅は引き払ったからな。また当分ホテル住まいになる予定だ」
「ホテルって、まさか」
「キミの事務所の隣だ。あそこの支配人とは懇意にしているのでな」
「やっぱりそうか」
僕は溜息を吐いて、ようやく流れの途切れた道路を横切る。あんまり交通量の多い道路ではないものの、運転には慣れていないからまあゆっくり行く位が丁度いい。
「しばらく居るんですか?」
「2日には戻るが、それまでは滞在するつもりだ」
「やったー。じゃあクリスマスも忘年会も年越しも初日の出も初詣も一緒ですねッ」
「うむ、そういうことになるな」
「はみちゃん、ココはなるほど君なんかよりもミツルギ検事を煽てないとッ」
「はい、真宵さまっ」
「僕なんか、って何だよ」
「やだなあ、なるほど君。言葉の通りだよ」
「余計ヤだよ、ソレ」
真宵ちゃんの言葉に僕はがっくりと肩を落として、ハンドルに突っ伏した。ノロノロと走る車で住宅街を抜けて、ゆっくりと事務所の前に止める。
「じゃあ僕は車返してくるから、事務所で待ってろよ。真宵ちゃん、カギ持ってるよね?」
「当たり前じゃない。帰りはゆっくりでいいからね」
「どういう意味だよ」
「まあそういう意味だ。いっそ帰ってこなくても構わない」
「あのな」
「お茶の用意をしてお待ちしていますわ」
「ありがと、春美ちゃん」
疲れるやり取りにぐったりとしながらも、僕はバックギアを入れながら、Uターンして走り出した。
※まだ続く。次は【087.根本を揺るがす言葉】です。