【074:許されない】10:58 2007/11/24
この仕事に携わるからには自分勝手に動くことは許されない。少なくとも警察庁と検事局ふたつの威信を賭しているわけだから、放り出すなんてことは絶対に、許されない。
私はこの仕事に誇りを持っている。
私はこの仕事にプライドを賭けている。
だからどんな被疑者であれど私はその二つだけは決して忘れることは無い。
親友である成歩堂龍一の仕事は私の仕事と双子のように似通っており、そして相反している。彼は依頼人の無罪を信じているし、またそのための努力も惜しまない。私がこの仕事を信じているように、彼は彼の仕事を信じている。
それでも私は彼ほど強いわけではなく、時折己の仕事に疑念を抱くことさえあって。極々限られた時ではあるけれど、この重責から逃げ出してしまいたいときもある。逃げてしまえば多分楽になるのだろう。重荷から解き放たれて安堵するのだろう。しかし、同時に私は己の誇りを失って、私は己を失って。重荷が消えた背中を不審に思って。完膚なきまでに己を壊してしまうのだろう。
だから私はこの仕事に就いているし、だから私はこの仕事から離れることは出来ない。何とも身勝手な理由であるけれども事実だから仕方ない。
「うーん、なるほど君がそんなに真面目とは思えないですけどねえ」
ちゅるちゅると隣で味噌ラーメンを啜っている女性――綾里真宵はそう言って首を傾げた。
裁判所地下のカフェテリアに何故味噌ラーメンがあるのか分からないが、とにかく彼女はここの常連で、ウエイトレスが苦笑しながら3杯目のラーメンを先ほど運んできたばかりだった。
「なるほど君なんて全部ハッタリだし、むしろ行き当たりバッタリだし」
「しかし必ずと言っていいほど冤罪絡みではないか」
「あー、何かそういうのを引き寄せるって言うか嗅覚というか」
ずずっ、とスープを呑みながら、満足そうにどんぶりを置いた。到着から5分も経っていない。華奢な体格であるというのに何処に収納されてるのか少し疑問だったが問うのもどうかと思ったので黙っておく。
「基本的に運だけで生きてる気がしますよ、なるほど君って」
水を入れに来たウエイトレスに更に追加のあんみつを頼みながら、そう言った。私は彼女の言葉にそうかもしれないな、と納得しつつ、彼女の食欲だけには納得出来ず。とりあえず悶々と抱える疑問に更に疑問を重ねてしまったことを後悔しつつ。
彼女の止まることを知らない食欲に対して、変に歯止めを利かすと後々許されないだろうことが分かっていたので、あんみつとケーキとアイスクリームを順繰りに食べる綾里真宵嬢を見ながら、世の中には説明できない何かがあるのだろうとしんみり思ったのだった。
※真面目な書き出しなのに何かしら真宵ちゃんの逸話になりつつあるアレやソレ。なるほど君は名前だけしか出てません。