【071:凍てつく雨】18:30 2007/12/15 冬の雨は冷たい。 身を切り裂くような槍のごとき雫が空から如何様に降ってくる。 憂鬱な身体を無理矢理動かしながら、傘を片手に現場検証などとなると雨など邪魔でしょうがない。 「止まないッスね」 「そうだな」 「夜から雪になるって言ってたッス」 「それは迷惑なことだな」 遺体はとっくに警察病院へと搬送され、今頃何処かの教授やらが遺体検分を行っている頃だろう。本来ならば私自身が立ち会わねばならなかったのだが、丁度手空きだった亜内検事に立会いを頼み、こうして現場に出ている。 「証拠は雨で流されなかったのだろうか」 「バッチリッス。遺体の身体の下から発見したッス」 「それならば良い」 冬の雨は冷たい。 身を切り裂くような槍のごとき雫が空から如何様に降ってくる。 誰かが起こした犯罪も、誰かが出会した凶行も、全てこの雨に呑まれていく。 「御剣検事、冷えるッスから後は任せて車の中に戻るッス」 「いや、構わない」 「・・・・・・ヤッパリ君、ッスか?」 「ああ」 ニュースの速報で伝えられた今回の事件は極めて単純なものに思われた。 が、しかしソレを一緒に見ていた成歩堂は『こんなの冤罪じゃないか』と大いに憤っていたから、彼なりに何か感じるものがあったのだろう。 「今回も荒れるッスかね、裁判」 「荒れるだろうな。アレが相手だ」 「うう、自分、また給料が下がるッス」 「安心したまえ。これ以上下げると労基法及び国家公務員法に抵触する恐れがあるからそのようなアレは無い」 「うううう、ソレもどうかと思うッスがねえ・・・・・・」 ブツブツとぼやく刑事の独り言を聞かなかったことにして、私はもうすぐ来るであろう不敵な笑みを浮かべる弁護士を出迎えるべく、傘の柄を握りなおした。
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