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※ちょっとしたお話

【096:ヒトハダ】22:23 2007/07/31

成歩堂、と呼ばれて振り向くと御剣が手招きをしていた。

今日は珍しく二人の休みが重なった、それはもう貴重な休みだった。
であるにも関らず、僕はテレビを見ながら真昼間からのビールを満喫しているところで。何て無駄に過ごしてるんだろうと思いながらもダラダラと過ごしていた。
片や、御剣はといえば、やっぱりこちらも積読状態の本をこの時とばかりに読みふけっていたように思う。
お互い好き勝手すぎる何とも自慢の出来ない休暇の過ごし方ではあった。

テレビのチャンネルを適当に変えながら、僕は床に寝そべっていた。アルコールが回ってきたのか、どうにも眠い。というか、半分寝てたような気もする。
ゴロゴロ転がりながらクッションを枕に伸びていると、頭上から声がした。
「成歩堂」
呼ばれて振り向くと、御剣が手招きをしている。
何だろう珍しいな、と思いながら、のそりと起き上がってヒョコヒョコ近寄った。
と、腕を掴まれて引っ張られた。
「うわッ」
体勢を崩して、僕は御剣の身体に倒れこむ。
ソファの背もたれに辛うじて腕を付いたものの、強かにぶつけた額を摩った。
「何するんだよ」
僕が異議を唱えると、御剣の腕が伸びて背中へと回される。
ん、コレはひょっとしてひょっとするかもなんてバカなことを考えてると、思いきり抱きしめられた。抱擁なんてもんじゃない。ただのサバ折りだと心中抗議を叫びながら、僕はタップする。
「痛い痛い痛い痛い」
「ム、すまない」
どうやら通じたようだ。力が弱められ、ホッと息を吐いた。
とはいえ、相変わらず御剣の膝に抱えられた状態では間抜けにも程がある。
「あのさ、重くないか?」
「そんなことはない」
遠回しの意見はどうやら通じないらしい。
「っていうか、御剣。僕、普通に座りたいんだけど」
「我慢しろ」
再び強く抱きしめられて、ぎゃあ、と僕は叫んだ。
いかんせん立派な体躯の持ち主に力いっぱい抱きしめられたら悲鳴より他に出すものはない。
「あまり大声出すな。耳が痛い」
「だったら力を弱めろよッ」
「ぬ、それは出来ない相談だな」
「いや、それ意味分からないから」
御剣は片手だけ離して、顔の横まで上げる。
あのイヤミったらしい、皮肉めいた笑みが口の端に浮かんだ。
「人肌恋しい時期なのだから仕方あるまい」
「異議あり。検察側の論理が破綻してますッ」
「分からないというのか。このド素人が」
うん、もう素人でも何でも良いから勘弁してくれよ、と内心僕は思ってたりする。
とりあえず気を取り直して、改めてもがくと漸く解放された。
「ってかさ、何だよ。人肌恋しい時期って。今、夏だぞ」
「ウム、何と言えば良いのだろうな。まあそういう時期なのだから仕方あるまい」
「オマエね」
ガックリと肩を落とすと、またしても伸びてきた腕が僕の頭をガシッと掴んだ。
「そういう訳なのだから大人しくしてもらおうか、成歩堂龍一」
「い、イヤイヤイヤイヤ。そういう問題じゃないだろ」
クッションを乱暴に掴んで、御剣に叩きつけると、手はクッションに伸びて抱きしめていた。どうやら 身代わりが成功したようだ。
「むう、コレでは足りぬ。やはり温もりがあった方が成分的にも丁度良い」
「何の成分だよ」
「人肌が足りんのだ」
にゅう、と伸ばされる腕が限りなく恐ろしい。
思わず後退りしながら、僕は待ったと叫んだ。
「訳分かんないこと言ってる場合かよ。別にイヌとかネコでも抱いてればイイじゃないか。ほら、丁度ベランダにもネコが来てることだしさ」
「キサマ、この期に及んで往生際が悪いぞ。男ならば覚悟して受け入れろ」
「そういう問題じゃないって言ってるだろッ」
なんだかもう泣きそうだった。
コイツ、頭良いくせにどうして僕の言うことを理解してくれないのだろう。
「何でッ、僕なんだよッ」
「別にネコでも構わんのだが、而して抱き心地としては小さすぎて如何ともしがたいのだ。アレでは物足りないのだよ、成歩堂」
「だ、だったら女の人でも抱いてろよ。僕よりマシだろ」
「いいのか?」
しまった。失言だ。
御剣の目が怖い。今にも食われそうな気がするのは何故だろう。そうか、肉食獣的な笑みになってるからか。っていうかどうしよう。逃げなきゃヤバい気がしてきた。
「キミが勧めるのならば女性だろうが何だろうが関係などないからな。思う存分抱いてくるぞ」
「ちょ、ちょっと待てよ。冗談だってば。な、な、落ち着けって」
背中が汗で気持ち悪い。うう、聞かなきゃ良かった。色々と。
「まあ、そんなつもりは毛頭無いが」
「え?」
油断した隙に御剣が僕を捕まえた。腰に手を回されて、足で抱え込まれる。肩口に顎を乗せられて、完全にホールドされてしまっている。うう、情けない。
「キミほど抱き心地の良いモノもなかなか居ないのでな。大きさも丁度いいし、手放すつもりはないぞ」
「……僕は枕かよ」
脱力した身体を御剣が嬉しそうに触っている。
ああもうセクハラとかそういうのは言わないから。頼むから。
「せめてもう少し恋人同士らしいことしない?」
僕がそう言うと、御剣はクッと笑って見上げてくる。
諧謔的な笑みを浮かべて、小さく唇を動かした。
「キミが望むのなら幾らでも付き合おう」
もちろんこの台詞に僕がノックアウトされたことも、一応書いておく。

※ナルミツのつもりで書いてますが、読みようによってはミツナルだよ。コレ。