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※ちょっとしたお話

【090:ロジック】8:02 2007/06/21

オハヨウ、と声が聞こえた。
僕は唸ってるような何だかよく分からない返事をして、もぞもぞと布団に潜り込む。再び目を閉じるとゆっくり眠気が襲ってくる。あと5分。あと5分だけ寝よう。
しかし声の主はそんなつもりはサラサラ無いらしく、布団を無造作に掴むと僕から剥ぎ取った。
「オハヨウ、と言ってるのだがな成歩堂」
「あと5分だけ寝かせてくれよ」
「断る」
うう、と唸って、それから欠伸をして。
僕はようやく愛しき布団から起き上がった。

「あ、パパおはよう」
「おはようございます、成歩堂さん」
「んー、おはようみぬき、オドロキ君。今日も朝から元気だね」
「キサマが寝汚いだけだ」
後ろから不機嫌な声が聞こえて、僕はノロノロと洗面所へと足を向ける。
コイツは朝型だけど、僕は夜型なんだ。
そういう言い訳はとりあえず胸にしまっておく。じゃないと、朝から法廷ばりに異議を繰り返すことになるだろう。
適当に顔を洗って、歯を磨く。
ときどき欠伸が出るのは仕方ない。
冷たい水でやっと意識が半分くらい浮上してきたところで僕は食卓へ向かう。
テーブルの上にはいつもと同じ美味しそうな朝ゴハン。
他人が作るご飯ほど美味しいものはない。
これは僕の持論なので、もちろん残さず食べる。
今日は御剣がいるからか、それとも単純にパンが無かっただけなのか分からないけど和食だった。先に食卓についている三人はとっくに食べ始めている。僕はいただきます、と言って味噌汁を一口飲んだ。味噌の香りが起き抜けの身体に廻って、ホッとする。
「オドロキ君、今日も美味しいね」
「みぬき、オドロキさんのご飯好きですよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「御剣。オマエは何も言わないの?」
「ム。有難い事だと思っている」
「直接言わないと」
「き、気にしないでいいですよ。そんな」
「いや、私が悪かった。王泥喜クン、成歩堂のようなダメ人間の相手をしてくれて感謝している」
「そっちかよ」
「無論だ。キサマのようなダメ人間は他人に世話してもらっているという考えさえ持たないからな」
「異議あり。僕がいつオマエの世話になってるって?」
「馬鹿者が。そもそもこの部屋は誰の部屋だ。私の名義で買ったものだぞ」
「オマエが帰ってこないから僕が管理してるんじゃないか」
「確かに私は自由に使っていいとは言ったが、この7年でキサマがしたことは何だ。弁護士を辞めてピアニスト? 挙句、子供まで抱え込んで。この私に一切の相談無く、だ。フザケるのも大概にしたまえ」
「電話しても出ないようなヤツに言われたくないね」
「いつ、私が、電話に出なかったと?」
「いつもだろ。電話しても出ないしオマエから電話してきたことなんか無いじゃないか」
「キミにワザワザ電話して話す用などないからな。そんなものは帰ってきたときでも事足りると思ったのだよ」
「足りなかったから怒ってるんだろ。自分の言うことくらい矛盾に気付けよな」
「キサマが今まで電話してきた用件は何だ。事務所のガラスが割れた? 真宵クンに苛められた? 矢張が女に振られた? 馬鹿馬鹿しい内容しかないくせに仕事中に電話を掛けるのは止めたまえ。いい加減、仕事の邪魔だ」
「やっぱりワザと取らないんじゃないか。相談も何も出来るわけないだろ」
「キミは普段の態度を改めたまえ。そうすれば私も少しは信用してやる、が」
「言ったな。よし、今ココで証明してやろうじゃないか」
「証拠があるとでも? 馬鹿馬鹿しい。いつものハッタリはお断りだ」
僕はゆらり、と椅子から立ち上がる。
御剣も似たような体勢で立ち上がっていた。と。
「パパ、オドロキさんが止まってるよ」
「え、ああ。ゴメンな、みぬき。パパ、ちょっと感情的になりすぎたよ」
「ム、すまない。私も大人げなかったな」
みぬきののんびりした声で僕らはようやく口論を止めた。
御剣は澄ました顔で椅子に座りなおし、お茶を啜っている。腹立ってくるな、相変わらず。
オドロキ君はなんだか動揺してて、顔色を信号のように変えていた。まあ、僕らの会話に慣れていなければこんなものなんだろう。

※朝ゴハンを食べましょう。うん