【086:コロン】11:10 2007/07/14
キミが傍にいるから。
キミが僕の中にいるから。
僕は僕のまま、生きていけるんだと思うんだ。
部屋のカギを回して、僕は部屋の中に滑り込む。
誰も居ない室内にただいま、と言いながら、すっかり濡れてしまったスーツを玄関先で脱いだ。
ボイラーを入れて、電気をつける。
タオルで鞄を軽く拭いて、フローリングに放置する。
風呂場に飛び込んで、蛇口を捻ると生温いお湯がドボドボと流れ出た。
その間にシャツやネクタイを脱いで、僕はシャワーに切り替える。
アア、と溜息を吐くと風呂場中に反響して、水音に消された。
しっとりと濡れている髪をシャンプーで泡立てる。
整髪剤なんかとっくに落ちてしまって、頼りなく垂れた前髪が視界に入った。
いつもより長めに入ってしまったようで時計は日付を超えていた。
夕食を取るような気力も無くて、電気を消しながら僕は早々に寝室に入る。
ベッドサイドには消し忘れた常夜灯。
布団がほんの僅かに膨らんでいて、一定のリズムで上下している。
空いてる方に回り込んで、シーツを捲ると蹲るように寝ている御剣が居る。
帰ってきてたんだ。
枕を抱きながら、眉を顰めている姿に苦笑しながら僕も中に潜り込む。
人肌で暖められたのか、いつもの冷え冷えした感触はない。
そっと腕を回して、胸元に寄せてやる。
僅かな香りが鼻をくすぐる。御剣の匂いだ。きっと香水の残り香なのだろう。柔らかいシトラスの香り。穏やかで静かな呼吸は耳に残って心地良い。空いた手で常夜灯を消して、僕は腕の中の温もりを抱きしめながら眠りに付いた。
※人肌恋しい時期到来。