【064:トランキライザー】9:45 2007/06/30
「うわー、ベッドふかふかー。キモチいいー」
「成歩堂、寝るなら自分の布団で寝ろ」
「やだよー、もう僕動けないー」
「子供かキサマは。私が寝れないだろう?」
「んー、じゃあ御剣が僕のベッドで寝ればいいじゃん」
「キサマというヤツは」
私は溜息を吐く。酔っ払い相手にムキになっても仕方がない。
仕方なくベッドサイドのクスリだけを取る。コレが無いと最近は寝ることもろくに出来ない。
「何ソレ」
まだ起きていたのか成歩堂がぼんやりと私の方を見ている。
視線の先は、手元のクスリ。見られたかと、小さく舌打ちをした。
「クスリ? 睡眠薬か何か?」
「……ああ、そのようなものだ」
「寝れないの?」
「キミの気にするようなことではない」
少し語尾をキツめに言い放つと、私は踵を返す。
「御剣」
腕を掴まれて、私は顔を顰める。
伸ばされた手は私の手首をがっちりと押さえており、籠められた力が痛い。
「まだオマエ引きずってるのか?」
寝そべる成歩堂の顔は真剣そのものだ。真っ直ぐに見据えられて、思わず息を呑む。言葉に詰まっていると、成歩堂は構わず腕を引いた。
バランスが崩れて、私はベッドに座り込む。
「何をするっ」
「あのさ、そんなに僕とか頼りないわけ?」
息巻いているのか語気が荒くなっている。目も据わっているが、コレはアルコールが原因なのかそれとも違う理由なのかは分からない。
「――キミに頼るようなことではない。コレは私だけの問題だ」
ソレだけを言うと、私は力が緩んだ隙を狙って腕を振り解いた。
「キミは、そんなことに構っているほど暇な人間なのか?」
さっさと寝たまえ、そう言い放ち立ち上がろうとする。
「待てよ」
グイッ、と襟首を掴まれた。
視界がぐるりと反転し、私は天井を見上げる形になる。
ふ、と翳ったのは成歩堂が覗き込んでいるからだろう。
「何だ」
「僕を頼れよ、御剣」
「何故、キミに頼らねばならんのだ」
「オマエ、一人で抱え込む癖があるだろ。誰にも何も言わずに居なくなったりするだろ。そのまま、僕のことも忘れたりするんだろ?」
「成歩堂――キミは」
「何処にも行くなよっ」
俯いた表情は平素からは想像できないほど歪んでいる。ふと、私は真宵クンの言葉を思い出した。
『なるほどくん、ミツルギ検事が居なかった時期は大変だったんですよ』
成歩堂は私の胸元にしがみついている。肩が震えて、嗚咽を殺している。
彼も私も言葉を使う職業に居ながら、そのくせ本音を曝すことが苦手だ。
「不器用だな、キミも」
私は彼の背中に手を回し、ぽんぽんと叩いてやる。
子供の頃と本質的には何も変わっていないのはお互い様だ。
私に会いたい一心で弁護士になったと言われた時は――正直、引いたことは否めないが。
「――オマエだって、僕以上に不器用じゃないか」
しゃくりあげながらポツリと成歩堂が呟く。
私は苦笑しながら、彼の頭をそっと撫でた。
※アレ? 書こうとしたことと書きあがったものが違うんですが。オヤオヤ?