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※ちょっとしたお話

【052:ノック】4:04 2007/07/31

咽喉の痛みに耐え切れずに、思わず咳き込んだ。
静かな室内には自分より他は誰も居ない。
少し冷房を掛けすぎたかと、舌打ちをしながら空調を切った。
仕事が一通り片付いたのを確認し、漸くパソコンの電源を落とす。
明日の審理にはこの程度で十分だろう。
後は検査待ちの部分が幾つかあるが、それも朝には間に合う予定だ。
クラクラ揺れる視界に思わず目を閉じて、目元を指で押さえる。
軽くこめかみを押さえると少しは楽になった。
今日は早めに帰ろう。
そう思って、帰り支度を始めるとトントンとドアがノックされた。
どうぞ、と声を掛けると見慣れた顔が覗いている。
「終わった?」
成歩堂はきょろきょろと室内を見渡しながら、ずかずかと近づいてきた。
勝手知ったる風に歩き回られるのは本意ではなかったが、久しぶりに見た顔には少しだけホッとする。
「終わったんならご飯食べに行こうよ」
「仕事中だったらどうするつもりなのだ?」
「もちろん待たせてもらうさ」
成歩堂はにんまりと笑って、私の腕を掴んだ。
離せ、というと、ヤダよ、と笑う。
「声、掠れてるね。風邪でもひいた?」
「キサマには関係ないことだ」
「そうでもないよ」
私が眉を顰めると、成歩堂は腕を掴んだまま勝手に私の鞄を取って入り口へと歩き出す。
「今日はご飯なんか良いや。とりあえずオマエの方が心配」
「何を」
「ワーカホリックもほどほどにしとけよ」
まあお互い様だけどね、とぺろりと舌を出して成歩堂が笑う。
むう、と唸っているとパッと手を離されて、改めて手を繋がれた。
「帰るよ、御剣」
手のひらから伝わる熱に先程とは違う眩暈を感じながら、私は小さく頷いた。

※風邪かなあ