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※ちょっとしたお話

【045:シーツ】1:22 2007/08/05

僕は御剣の顔を見る。
ものすごく端整な顔立ちなのにそれでも女性らしいとは思えない。むしろキレイな男前の顔だ。女性だってそりゃコイツに口説かれると一発だよな、と思いながらまじまじと見る。目つきが悪いのも切れ長と言ってしまえば長所になるし、薄い唇もうっすら色づいてかなり艶っぽい。何より色の白さが凶悪的なほどの色気を放ってるのだから始末に終えない。うん、そりゃモテるよな。どう考えても。
「人の顔を隅々まで見て楽しいか、成歩堂?」
「うん、楽しいよ」
僕はぼんやりとした口調で答えながら、頬杖をついて見続ける。
そういえばコイツこう見えて女性には優しいから、見た目の怖さとのギャップでプラスになるんだろうな。誰だったか忘れたけど、『女性に優しくするからモテるんだけど、当人にその気は無いから結局振った振られたなんて話になっちゃうんだよねえ』とか言ってたっけ。言われてみればその通りだよな。自覚症状無いもんな。無自覚に色気を垂れ流しにしてるというか、守ってやりたくなると言うか。ううん、僕も騙されてる一人なのかななんてバカなことを考えてみる。
「本を読むにも集中できん。テレビでも見てろ、阿呆」
「ヤダよ」
いいなあ、僕もモテてみたいよなあ。僕の場合は真宵ちゃんといい、マコちゃんといい、どうも面白キャラ扱いされてる感がある。まあ確かに春美ちゃんにも勝てないような社会人だしな。女性には何故か頭が上がらないから、どうしようもない。ううん、僕なにかトラウマでもあったっけ。千尋さんにも苦笑されることが多かったしな。イトノコさんには名前すら覚えてもらえないし。もうトゲとか青い人とか顔以外の判別方法はやめて欲しいところだよなあ。
「成歩堂」
「ん、どうかした?」
御剣が本を閉じて、深く溜息を吐いている。どうしたのかな、気分でも悪いんだろうか。いや、でも、ううんまさか。ああでも昨日は少し無理させたかもしれないな。しまった。でも止められないからなあ自分でも。
「何、バカなことを考えてる。そういうことではないぞ」
「え、ああ、ってなんで僕の考えてることが分かるんだよ」
「今までも声に出ていたぞ」
「うわ、最悪だ」
どうやら無意識にブツブツと呟いてたらしい。うう、本当に最悪だ。
「嫉妬してる暇などあったら、私の気でも引いてみろ」
「うん、もうゴメンって――え? ゴメン、もう一回聞いていい?」
「知るか、阿呆」
驚いた。御剣が赤面してる。というか、僕、今誘われた?
「あ、あのさ」
「何だッ」
「キス、していい?」
「勝手にしろ」
ブラボー。どうやら聞き間違いではないようだ。僕は今ハッキリと御剣の誘いに乗ることを決意する。ある意味、後は野となれ山となれってところだ。ソファに座ったまま、唇を重ねようとして少し考える。
明日は休み。御剣も休み。つまり、ゆっくり寝れる。ということは、だ。
「ゴメン、先にベッド行こうよ」
「な」
「明日休みだしさ。な、行こ?」
「う…ム……」
うわあ、照れてるよ。涙目なってるよ。なんで僕の服の裾なんか掴んでるんだよ。頼む上目遣いはやめてくれ。僕が持たない。っていうか、多分御剣のこんな顔知ってるの僕だけなんだよなあ。ああ、もう本当に可愛いよなあ。男に可愛いっていうのも間違ってる気がするけど、やっぱり可愛いよなあ。
普段はキレイな顔をして、口から飛び出すのは鋭い舌鋒で。証人や僕やイトノコさんをとことん追い詰めたりして、不敵な笑みを浮かべてて。たまに漏らす苦笑が男らしくって、たまに羨ましくて。体格も僕なんかよりずっと逞しくて、一度殴られたことあるけどアレは本当に痛かった。あの時は確か泣いて謝ったっけ。っていうか、お願いだから御剣、あんまり僕に縋りつかないでくれ。ベッドまで持たない。いや、ホントに。
「……成歩堂」
「な、何だよ」
「そういうことは心の中だけで思ってくれ。そのようなアレは、困る」
「あぅ、ゴメン」
ダメだ、嬉しすぎて理性どころか思考そのものがオーバーヒート気味らしい。
「多分、キミが思ってるほど――私はその、うム」
どうやら思考の暗礁に乗り上げたらしい。その気持ちは分かる。というか、僕もその状態だ。分からないはずが無い。
「うん、言いたいことは分かるからさ」
とりあえずキモチイイことしようよ、と僕は御剣と一緒にシーツの海に飛び込んだ。

※何このバカップル。もう誰か助けて