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※ちょっとしたお話

【037:テロップ】0:45 2007/08/06

御剣と映画を見に行った。
ちょっと離れたショッピングセンターに隣接する映画館だ。中はアメリカナイズにミニシアターが幾つか入っていて、一回ごとに入れ換え制になっている。昔はでっかい劇場の端っこなんかに座ったりして、何度も見たもんだけど。時代の移り変わりというのは少し切ないものだ。
で、御剣が見たがったタイトルはもちろん『トノサマン』だ。
正直僕なんかより真宵ちゃんを誘えよとも思ったけど、久しぶりのデートなので黙ってることにする。
劇場内は当たり前といえば当たり前の如く、お子様達が溢れかえり、一緒に連れてこられた父親らしき人物は時折欠伸を噛み殺している。母親らしき人たちはどうやら出演する俳優にキャアキャア騒いでるようだ。ううん、あんまり子供と変わらないよな。
で、僕の恋人はというと。
「う、ううっ……」
だからなんで泣いてるんだよ。御剣。
僕はげんなりしながら、スクリーンを見る。どうやら感動のラストというか。もうすぐ終わりは近い。僕の眠気もサヨウナラ、というところだろうか。しかし、御剣が泣き止む気配はない。困ったどうしよう。
ううん、と考え込んだ挙句、僕は御剣の手を握ってやった。
指を絡めると握る力が強くなった。普段もコレくらい素直だと助かるんだけどなあ。絶対やってくれないよなあ。
いくら映画館が暗いからといって、それ以上のことは出来ない。僕はスクリーンよりも御剣を見て、退屈を紛らわす。
スクリーンの中ではどうやら強敵を倒したのか、爆破音だけが続いている。
むしろキメ台詞が「アッパレカッポレ」ってどうなんだそれは日本語として正しいのだろうかいやそんなこと無いよなあ在りえないよとツッコんでしまった。子供向けだからこそ日本語は正しく使うべきだろう、うん。
最後は皆で笑って解決、といったところか。テロップが流れて、お子様やら保護者やらが動き始める。さて、僕らも出るとしよう。
立ち上がろうと腰を上げると、腕をグイッと引っ張られて、イスに尻餅をついた。腕を辿ると目を赤く腫らせた御剣が居る。うわ、その表情ヤバいから。
「座りたまえ」
有無を言わせぬ声音に僕は渋々座りなおす。画面はただただ出演者やら監督なんかの名前を流してるだけだ。メイキングとかエピローグが流れてるわけじゃない。そんなの見ても面白くなんかありゃしない。
「帰ろうよ。あんまり時間も無いんだしさ」
僕がそう言うと、御剣は首を横に振って、口元を歪める。
「キサマ、スタッフロールまで見てこそ映画の醍醐味だろうが」
ゴメン、僕には分からない。
それでもジッと画面に食い入るように身を乗り出す御剣の姿を見て、僕もとうとう諦める。ああ、やっぱり映画なんか誘わなければ良かったかな。
チラリと覗くと、ブツブツ何か言っている。ちょっと耳を傾けてみた。
「ウムやはり監督は宇在氏だったか。ならばこの展開も納得できるな。しかしここから続編に繋げるというのはやはり多少の無理があったのだろう。難点といえばそこだが、ソレ以外は実に素晴らしい。特に中盤の人間関係が複雑に絡み合った展開が宇在氏の最大の特徴だからな。コレはもう子供向けというのみならず大人にも――」
評論かよ。っていうか、テロップ見てないじゃん。
「おい」
「ム、邪魔をしないでもらいたいものだが」
「いや、もう終わってるから。ほら、照明だって付いてるし」
「ぬ、ソレは気付かなかった。すまない」
僕は盛大に溜息を付きながら、改めて立ち上がった。
御剣はパンフレットを片手に颯爽と階段を下りていく。
ああ、きっと売り場のお姉さんに「キミ、この品物を一通りくれたまえ」なんて大人買いをするんだろうな。というか、ソレを僕に見せびらかして薀蓄かましてくれるんだろうな。ってか、また気まずい思いをさせられるのだろうか。期待するだけ無駄なんだろうなあ。多分。
意気揚々と歩いていく御剣の背中を見ながら、僕はガックリと肩を落とした。

※兄と私。毎回彼女と間違えられて閉口したよ。こんなのとカップルにすんな