【033:レモネード】8:04 2007/08/01
『昔なつかしのレモネード』
そんな言葉につられて入ったのは、いかにも古い喫茶店。
それでも店内はキレイにされていて、他のお客もちらほら座っている。
どうやら昭和に流行ったゲーム喫茶を復元しているようだ。
親の世代でさえ間に合っていないインベーダーゲームがクリアな画面でひょこひょこ動いている。なぜかホッケーゲームなどもあって、タッチパネルに手を触れるとパックを弾けるようだ。みんなうだうだとゲームを興じながら、コーヒーやら冷や水やら好き勝手飲んでいる。
「しかし何故か落ち着くな」
連れの男はそう言って、空いたテーブルに腰を下ろした。
僕も同じように腰を下ろす。
空調はないけれど、開け放たれた窓から風が流れて暑いは思わない。窓枠に吊り下がった江戸風鈴が涼やかに鳴っていた。
小腹が空いていたので、何か食べようとメニューを開く。ヤキソバやらラーメンやら無秩序な様がほほえましい。僕らがお好み焼きを頼むとテーブルの蓋が外されて鉄板が現れた。
そうか、そういう仕組みか。
スイッチが入れられて、じじじ、と焼ける音がする。
カラン、と冷水の氷が崩れて溶けていく。
目の前の男―――御剣怜侍はレモネードをゆっくり飲んでいる。
そういえば甘いものが好きだったよな、と考えながら見つめていると視線に気付いて眉を顰めた。
「私の顔に何か付いているのか?」
相変わらずピントのずれたヤツだよなあ、とつらつら思う。
僕は、なんでもないよと言って、すっかり温くなった水を呷った。
凛、と風鈴が揺れる。
お待ちどうさま、とオバサンが現れて手際よくお好み焼きを作っていく。
見本、ということで二つ作った後はボウルに入れられた種を置いて、ごゆっくり、と去っていった。
オーソドックスなタイプのお好み焼きをソースやらマヨネーズやら適当に付けながら、平らげていく。こういった店にしては案外美味い。結構当たりだったかもなんて思った。とはいえ、御剣の食べるペースが早くて、僕は焼いてるだけで精一杯だったのだけど。
「ム、キミは食べないのか?」
「オマエなあ」
やっと気付いたように自分の分を不器用に焼き始める姿に思わず吹き出してしまう。生地が上手く丸くならずにだらだらと広がっていく。焦って整えようとしているものの、出来た形はあちこちはみ出して、いびつな楕円になっていた。ああ、もうコイツのこんなところが大好きだ。
「御剣、僕が焼くから食べてなよ」
「しかしそれではキミが食べられないではないか」
「余ったらご相伴いただくよ」
くるりとひっくり返すと生焼けだった生地が香ばしい匂いと共に焼けていく。
外は晴れていて、セミの鳴き声が暑っ苦しく響いている。
僕らはうっすら汗を掻きながら、何故かお好み焼きなんか食べていて。
目の前にはお好み焼きと格闘する御剣が、ヌウとかムムとか唸っている。
凛、と風鈴が揺れる。
こんな些細なことで嬉しくなれる自分は案外幸せなヤツなのかもしれない。
なんてことを思いながら、僕は御剣の顔を見つめてニッコリと笑ってやった。
※ほのぼの。何故かそんな夢を見た。何があったんだ、自分