【026:バリケード】0:14 2007/07/20
「キミは本当に強いのだな」
違うよ御剣。僕は強くない。僕は弱い。キミの方がずっと強い。真宵ちゃんやイトノコさん、矢張より弱いんだ。僕は弱い。ソレを知っている。知っているから隠している。隠しているから誰も気付かない。飄々と傷つかないフリをして、心の中はずっとずっと血を流している。けれどそれは態度に出さない。億尾にも出さない。だから。
だから、僕は自分を強いと偽ってるんだ。
「そう、かな。喧嘩とか弱いんだけど」
「そういう意味ではない」
うん、分かってるんだ。分かってるから誤魔化してるんだ。誤魔化さないと、キミは鋭いからすぐに気付いてしまうだろう。僕はキミに守られたいとは思わない。言えばキミは背負ってしまうだろう。僕は黙っている。誰にも言わない。
「じゃあどういう意味かな」
「キミはいつも笑ってるではないか」
嘘だ。笑ってるフリをしてるだけだ。笑ってる顔を作ってるだけだ。僕は常に弱音を吐いている。僕はキミに何もしてやれない。与えることも奪うことも助けることもこの手を差し伸べる事だって。一人やるせない気持ちを抱えて、一人取り残されて。そんなのは嫌だから僕は手に力を込める。
「成歩堂、痛い。離せ」
「うん」
僕は手放す。何を。全部を。
そんなこと、出来るわけが無いのに。
「御剣、抱いていい?」
「ぬ」
「僕、結構繊細なんだよ?」
きっと他の誰よりも弱い。キミが傍に居ても怖い。むしろキミが傍にいるから僕はどんどん弱くなっていく。けれどそれは居心地の良さと引き換えで。だから手放すことなんて出来やしない。
「……馬鹿言ってないで、たまには弱音くらい吐きたまえ。成歩堂」
溜息まじりの恋人の声が酷く優しくて戸惑った。けれど背中に回された手が優しく撫でるものだから、安堵して肩に額を乗せた。大きく呼吸をする。
「御剣、暖かいね」
「暑くないか?」
「ううん、暖かいよ。アリガトな」
眉根を寄せて困った顔の御剣を見て笑う。ああそうだ、僕はコイツの顔を見てると本当に幸せな気持ちになれる。だから弱い僕なのにキミを守るなんて強がりも言ってしまうんだ。
「もうどこにも行くなよ」
「むゥ」
更に困惑する恋人に笑いかけながら、僕はもう一度力を込めて、抱きしめた。
※自分も弱いと知っているから、愛すべき人間だけは全力をもって守ろうと思うんだろうな。