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※ちょっとしたお話

【012:ラジオ】8:04 2007/07/03

僕は、キミがいないだけで、こんなにも、壊れそうなのに。

カタカタとキーボードを叩きながら、僕は資料を凝視する。
もう審理まで時間がない。早急に書類を仕上げて、準備をしなければならない。
「よし、コレで終わりッ」
最後の一行を入力しきって、僕はエンターキーを押した。
しょぼついた目を擦りながら、大きく伸びをする。
パキパキと関節の鳴る音が聞こえ、僕は溜息を吐いた。
一息つけようとラジオのスイッチを入れて、簡易キッチンへと足を運んだ。
インスタントコーヒーを適当にマグカップへ放り込み、お湯を注ぐ。
湯気と共に香気がふわりとあがって、やっと僕の中のスイッチがオフになった。
お客さんのいないソファでだらしなく座りながら、コーヒーを啜る。
まだ少し熱かったのか、舌を火傷した。
コトリ、とガラステーブルにマグカップを置いて、背もたれにぐったりと凭れかかる。今回の証拠品や証人の顔、それに事件概要などが頭の中でぐるぐると廻っている。
オーバーワークだよな、と思いながら目を閉じた。
ラジオからは微かな音が流れてくる。
BGMには丁度良いか、とぼんやり考えてたらいつの間にか意識が落ちた。

『寄り添うだけじゃなにもワカラナイよ。視線逸らし「大丈夫だよ」、なんて』

ラジオの声で飛び起きる。
そうだ、事務所に居たんだっけ。
すっかり冷めたコーヒーを飲んで、少しだけ眠気を晴らす。
どうやらラジオを付けっぱなしで寝てしまったようだ。
女性ボーカリストがハスキーな声で歌っている。
メロディーラインと切ない歌詞が何となく気になって、僕は立ち上がってラジオのボリュームを上げた。
『一人夜に残されても、僅かなサインさえ探し出せないの。見えないデータ追うように』
まるで僕みたいだよな、と一人呟く。
手がかりも何も残されてない。ただあったのは一枚のメモ。
何処に行ったのかも、果たして生きてるのかもわからない。
忘れてしまいたくて、逃げたのかもしれない。
もし、そうでないのならば。
「……御剣」
零れた言葉に自分が傷ついている。
会って、言いたいことは山ほどあった。
問い詰めたいことだらけだった。
いろいろあって、いろいろ話して、いろいろ複雑な事情が横たわることに気付く。
僕程度が何が出来るなんて分からない。
けど、僕くらいが彼を信じてやらなきゃ周りに誰も居なくなってしまうだろう?
友情というには深すぎて、愛情というには物足りない。
僕はキミのことが好きだということだけが真実だ。
正体なんかどうだっていい。
ただ、キミを守りたくて、抱きしめたくて。
ただ、腕の中に閉じ込めたい。
顰めつらしい、苦しげな表情を緩めてやりたい。
キミが幸せで無いのなら、僕がその咎を背負ってやる。
一切の苦しみを、代わってでもいいから。

『フィルターを切って、ホントの顔を見せて』

キミに逢いたくて、仕方ないんだ。

※2設定。何度聞いてもナル→ミツに聞こえるよ……