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※ちょっとしたお話

【001:ネジ】8:03 2007/06/27

証拠というには決定力の欠けたものだった。
だが今はコレに頼るほかない。
「異議ありッ」
僕はビニールに入ったネジを握り締め、そう叫んだ。

「……まさか、ああいう結果になるとはな」
隣でゆっくりとウイスキーを飲んでいる男が苦笑する。
僕も同じ考えだったので、同じように笑った。
「さすがキミだ。予想できないという意味では私の好敵手に相応しい」
「ライバル、っていうか親友だけどな」
「フ、分かってないな。成歩堂」
「何が?」
「常に真実を追い求めるのならば、親友よりも好敵手の方が遣り甲斐があるだろう?」
「うーん、そういうものかな」
「少なくとも私はそうだ」
カラン、と氷が崩れる。僕はバーテンに追加を頼み、小皿のナッツを摘む。
「でも今日は僕自身も驚いたよ」
「キミとの裁判は荒れるからな。まあ想定には入れていたが」
「そんな覚悟してたのかよ。まあ荒れることに関しては否定はしないケド」
「しかしあんな重要な証拠品をキミに見つけられるとは屈辱だな」
「偶然だよ。僕だって最初は気付かなかったさ」
「また検察側のミスだな。全く情けなくて溜息も出尽くした感があるが」
「あんな小さいネジなら、見落としても仕方ないけどね」
今日の裁判は証拠品が足りず、酷く苦戦をした。
もちろん普段の裁判であればどうにかハッタリで乗り越えている。が、今日は相手が悪すぎた。目の前にいる男――御剣怜侍だ。
この男にはお得意のハッタリは聞かない。少しでもボロを出せば、たちまち逆転される。それは相手も同じ考えのようで、お互い手の内全てを曝け出しながらの舌戦。途中、熱くなり過ぎて裁判長から注意を受けたりもする。
そして、偽りに巧妙に隠された真実をむき出しにしていくのだ。
「――いつ気が付いた?」
「昨日の夜――いや、全部ってことなら今日の審理中」
「相変わらず綱渡りだなキミは」
「相手がオマエだからね」
「全力を尽くせて光栄だ、というところか」
「ありがとうくらい言えよな」
「それはキミが言うべき台詞だろう」
苦笑する相手にアリガトウと告げて、僕らは改めて乾杯を交わした。

※今回はなるほど君の勝ちらしい。